輸送費や保管費、人件費などの物流コストを最適化することで、収益性の向上につながります。しかし、有効な対策は目的や課題によって異なるため、慎重に検討する必要があります。
本記事では、物流コストの概要やコスト削減の成功事例などを解説します。
1.物流コストとは

物流コストとは、物流に関する業務全般にかかる費用です。供給者側から需要者側に荷物が移動する全工程で発生する費用を指します。
物流コストの主な分類は、以下のとおりです。
社内物流コスト | 物流管理システムの導入費用や利用費、担当者の人件費など |
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支払物流コスト | 外注先に支払う費用(輸送・運送・配送・倉庫保管・設備など) |
物流コストは、さらに細かく分類すると「輸送費」「保管費」「荷役費」「包装費」「管理費」などに分かれ、それぞれのコスト構造を理解することがコスト削減の第一歩となります。
物流コストの把握には、目に見えない費用に注意が必要です。
たとえば、トラックを使った輸送費は目に見えて認識しやすいですが、物流管理システムの月額利用料や人件費、倉庫の維持費などは、支払い時にはじめてコストとして認識されることが多いです。
そのため、物流コストを適切に管理するためには、輸送だけでなく、倉庫管理やシステム運用などの間接的なコストにも目を向け、全体のコスト構造を把握することが重要です。
(1)物流コストの推移

上の図は、一般社団法人 日本ロジスティクスシステム協会が行った調査結果です。2004〜2023年まで、過去20年間の「売上高物流コスト比率の推移(全業種)」をグラフ化しています。
2004年の5.01%を起点に2006年以降、減少傾向にありましたが、2020〜2021年にかけて5.70%まで上昇し、その後2023年まで2年連続で減少しています。
2020〜2021年にかけて物流量の増加に伴い、売上高と物流コストも比例して上昇しています。2022〜2023年の下降は、物流単価が上昇傾向にあるものの、物流量に対する売上高の伸び率が大きいことが要因です。
(2)物流コスト比率とは
物流コスト比率とは、売上高に占める物流コストの割合を示す指標であり、以下の計算式で求められます。
物流コスト比率(%)=(物流コストの総額 ÷ 総売上高)× 100 |
正確な物流コスト比率を算出するためには、物流コストの内訳を詳細に把握することが不可欠です。物流コストを適切に管理することで、無駄な支出を特定し、コスト削減の具体的な方針を立てることができます。
一般社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)では、毎年「物流コスト調査報告書」を発表し、荷主企業の物流コスト比率の平均値を公表しています。
JILSの調査によると、業種や企業規模によって物流コスト比率は異なりますが、一般的には売上高の5~10%程度が目安とされています。
基準となる物流コスト比率を知りたい場合は、JILSの公式ホームページ(JILSニュース)で最新の調査結果を確認することをおすすめします。
2.物流コストの内訳

物流コストの内訳には、輸送・運送・配送費や荷役費などがあります。
費用項目 | 具体例 |
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輸送・運送・配送費 | 車両の維持管理費用、燃料代、減価償却費 |
荷役費 | 入出庫・運搬・ピッキング |
保管費 | 商品の保管料 |
管理費 | 管理システムの導入費および利用費、事務費用 |
人件費 | 従業員の給与、手当、賞与、退職金、福利厚生費 |
ここでは、費用項目の具体的な内容について解説します。
(1)輸送・運送・配送費

輸送費(運送費)とは、荷物を運ぶ際に使用する車両・船舶・航空機の運行や維持管理にかかる費用を指します。これには、以下のようなコストが含まれます。
- 燃料費(軽油・ガソリンなど)
- 車両の車検・メンテナンス費用(タイヤ交換・修理など)
- 車両・機材の購入費やリース費用
- 船舶・航空機の運行に関する費用
近年、燃料費の高騰や物価上昇が物流業界の経営を圧迫する傾向にあり、なかでも燃料価格の変動は、企業努力だけでは抑えられない要因の一つです。
そのため、いかに効率よく荷物を運び、運送コストを最適化するかが重要な課題となっています。
(2)荷役費
荷役費とは、荷物の入出庫、倉庫内での運搬、仕分け、ピッキング作業などにかかる費用です。
倉庫業務のアウトソーシングを利用する場合、荷物の入庫・出庫ごとに費用が発生し、1個あたり数十円~数百円といった単位でコストがかかります。
荷役費の主な内訳は、以下のとおりです。
入出庫作業費 | 荷物の受け入れ・出庫対応 |
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倉庫内運搬費 | フォークリフト・台車を使用した移動 |
仕分け作業費 | 荷主ごとの分類・ラベル貼付など |
ピッキング費用 | 注文ごとの商品選別・梱包 |
荷役費を削減するには、作業の標準化や動線の最適化、物流ロボット・マテハン機器(自動搬送装置など)の導入が効果的です。効率的な荷役管理により、作業時間の短縮やミスの削減が可能となります。
作業のマニュアル化や設備の改善により、誰でもスムーズに業務を遂行できる体制を整えることも求められます。
(3)保管費
保管費とは、荷物を倉庫で保管する際に発生する費用です。倉庫の運営方法には、自社倉庫での保管と外部の専門業者への委託の2つの選択肢があります。
自社倉庫での保管 | ・外部委託のような保管料は不要 ・固定資産税・設備維持費・光熱費・人件費などのコストが発生 ・倉庫の運営や設備管理が必要 |
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外部の専門業者への委託 | ・荷物の量に応じた保管料が発生 ・業者によっては、預けた荷物に対して別途保険が必要になる場合がある ・自社での管理負担が減るが、契約条件によって柔軟性が制限されることも |
自社倉庫と外部倉庫、それぞれにメリット・デメリットがあるため、費用対効果だけでなく、立地やセキュリティ、業務の柔軟性も考慮し、最適な保管方法を選択することが重要です。
(4)管理費

管理費は、物流業務全般で使用する管理システムや事務費用です。例えば、物流管理システムや倉庫管理システム、さらにドラレコやデジタコなどの車両専用デバイスも含まれます。
管理費の主な内訳には、以下のようなものがあります。
- 物流管理システム(TMS)や倉庫管理システム(WMS)の導入・運用費
- ドラレコ(ドライブレコーダー)やデジタコ(デジタルタコグラフ)などの車両管理機器
- ハンディターミナルなどのデジタル機器
- システムのメンテナンス費用(保守・更新・クラウド利用料など)
なお、ドライブレコーダーやデジタルタコグラフは、ドライバーの動態管理や位置情報の把握、安全管理に活用される機器ですが、企業の管理方針によっては管理費または車両管理費に分類されることがあります。
物流管理の精度を高めるためには、適切な管理システムの導入と運用コストの最適化が不可欠です。企業ごとに管理費の内訳を正しく把握し、効率的なコスト管理を行うことが重要です。
(5)人件費
人件費とは、物流業務に従事する従業員の給与・手当・賞与などにかかる費用を指します。人件費の適正化には、作業効率の向上と労働環境の改善が重要なポイントとなります。
人件費削減のための施策の一例として、物流管理システムの導入や自動化・デジタル化の推進などがあります。
施策 | 期待できる効果 |
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物流管理システムの導入 | 配車・在庫管理の効率化により、作業時間を短縮 |
自動化・デジタル化の推進 | ピッキングロボットやハンディターミナルの活用で作業負担を軽減 |
労働環境の改善 | 働きやすい環境整備により、定着率向上と採用コスト削減 |
人手不足の状況が続く中、単なる人件費削減だけでなく、業務の効率化と働きやすい環境づくりを両立することが、持続可能な物流運営に不可欠です。
3.物流コストの削減が困難な主な理由

(1)人手不足

物流業界では、慢性的な人手不足が深刻な課題となっています。
国土交通省のデータによると、道路貨物運送業の運転従事者数は2000年をピークに減少しており、特に若年層の確保が困難な状況が続いています。
このままの状況が続けば、2024年4月から適用される「時間外労働の上限規制」(いわゆる2024年問題)によって、さらに人材確保が難しくなることが予測されています。そのため、業界全体で労働環境の改善や既存リソースの有効活用を進め、持続可能な物流体制の構築が求められています。
(2)燃料費の高騰

燃料費の高騰も、物流業界の経営を圧迫している大きな要因の一つです。 国土交通省のデータによると、軽油のスタンド価格は、平成8年(1996年)に67.78円/Lだったものが、令和4年(2022年)には120.99円/Lにまで上昇しています。
さらに、資源エネルギー庁が2024年2月5日に公表したデータによると、軽油価格は164.3円/Lに達しており、平成8年と比較すると約2.42倍の価格上昇となっています。
燃料費の高騰は、物流コストの増加に直結し、企業努力によるコスト削減にも限界があるのが現状です。
今後は、燃費効率の向上や代替燃料の活用、ルート最適化など、経営戦略の見直しが求められています。
(3)顧客ニーズの多様化
近年のEC市場の拡大に伴い、小口配送の需要が急増しています。
配送日や配達時間指定サービスの普及により、物流業務の負担が増加しているのが現状です。
顧客ニーズの多様化は、以下のように物流へ影響しています。
EC市場の成長 | 小口配送の増加により、輸送効率が低下 |
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配達時間指定の普及 | 配送ルートの最適化が難しくなり、コスト増加 |
即日配送・翌日配送の需要拡大 | 在庫管理・配送スケジュールの調整負担が増大 |
これにより、企業はコスト削減よりも配送の確実性を優先せざるを得ない状況となっています。
今後は、ルート最適化・共同配送・AIを活用した需給予測などを駆使し、コスト管理とサービス品質の両立が求められるでしょう。
4.物流コスト削減のアイデアと成功事例
(1)システム導入による自動化・効率化

物流コスト削減の有効な手段の一つとして、配車管理システム(TMS)や倉庫管理システム(WMS)などの物流管理システムの導入が挙げられます。
物流管理システム導入による主なメリットには、倉庫業務の効率化や車・配送業務の最適化などが挙げられます。
倉庫業務の効率化 | ・倉庫内作業の精度向上(入出庫・ピッキングの一元管理)・業務の属人化を防ぎ、人件費を削減 ・ハンディターミナル活用による人的ミスの削減 |
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車・配送業務の最適化 | ・配車・配送管理の自動化により、業務負担を軽減 ・ドライバーの日報作成を自動化し、管理コストを削減 ・配送ルートの最適化による燃料費 ・配送コストの削減 |
データ活用による経営改善 | ・安全運転支援・経営状況の可視化 |
適切なシステムを導入し、これらのメリットを最大限活かすことで、物流コストの削減と業務効率化の両立が可能となるでしょう。
(2)トレーラー交換方式

トレーラー交換方式とは、中継輸送において効率化を図る方法です。具体的には、中継地点でトレーラーのヘッド交換を行います。
川崎陸送株式会社、山梨総合運輸株式会社の2社がトレーラー交換方式を採用しています。

従来、大阪府高槻市と埼玉県坂戸市間の輸送は単車運行でしたが、現在は山梨県中央市および愛知県名古屋市を中継地点とし、双方が中継地点でヘッド(牽引車)を交換する方式に変更しました。
これにより、ドライバーは中継地点でUターンし、自社営業所へ帰社できる仕組みとなりました。
この取り組みにより、法令を遵守しつつ長距離輸送を維持し、ドライバーの負担を軽減することが可能になりました。また、中継地点が自社庫内にあるため、トレーラー交換をスムーズに行うことで、ドライバーの待機時間削減にも貢献しています。
トレーラー交換方式は、ヘッド交換のみで中継輸送を実施できるため、積み荷を下ろす必要がありません。 これにより、荷役作業の負担が軽減され、結果として労務コストの抑制にもつながることが期待されています。
(3)保管・積み方などの標準化

引用:https://www.mlit.go.jp/common/001347068.pdf
荷物の保管や積み方を標準化すると、積載効率や生産性が向上し、人件費削減が可能です。たとえば、物流クレート標準化協議会によるクレート標準化の取り組みでは、年間約70億円の人件費削減や仕分けスペースの大幅削減が実現されています。
従来、食品・飲料などの日配商品はメーカーごとに異なるサイズ・色のクレートが使われており、使用後のクレートの管理が煩雑化や積載効率の悪化などの問題が生じていましたが、日本スーパーマーケット協会の提案により、クレートの規格統一が進められました。
物流クレート標準化協議会では物流効率向上を目的に、クレートを4種類に統一し、標準化されたクレートは安定した積み重ねと収納が可能となりました。
その結果、年間約44,216㎡の仕分けスペース削減や輸送回数の最適化につながっています。
(4)ICT機器の導入
ICT機器を導入すると、配送効率が向上し、燃料コストを削減できます。
特にデジタルタコグラフ(デジタコ)は、運行管理をデジタル化し、燃費改善や安全運転の促進に貢献するツールとして注目されています。

国土交通省の調査によると、デジタコを活用した運転指導により、燃費が1km/L向上し、燃料消費量が15~20%削減された事例があります。
デジタル機器に不慣れなドライバー、特にベテランドライバーの抵抗感が導入の障壁となるケースもありますが、継続的な研修によりICT機器の使用が定着した事例を確認できます。
デジタコをはじめとするICT機器の活用により、物流の効率化とコスト削減を両立することが可能となるでしょう。
(5)モーダルシフト
モーダルシフトの導入は、ドライバーの労働時間削減や輸送コストの最適化、環境負荷低減に貢献します。
長距離輸送の負担軽減と2024年問題への対応を目的とした取り組みが進んでおり、大王製紙株式会社・日本製紙株式会社の共同輸送プロジェクトが成功事例として挙げられます。

日本製紙株式会社と大王製紙株式会社は、首都圏~関西間の輸送において、RORO船(フェリー型貨物船)を活用した海上輸送へのモーダルシフトを実施し、CO₂排出46.7%削減、ドライバーの総走行時間78.8%削減に成功しています。
モーダルシフトでは海上輸送などの効率的な輸送網の確立が進められており、今後も持続可能な物流体制の構築が期待されています。
(6)自動荷役システムによる全自動荷役

大王エンジニアリングは、大型物流センター2拠点に無人フォークリフトを導入し、荷役作業の完全自動化を実現し、倉庫内の在庫管理や入出庫作業が最適化され、省人化と業務効率向上に成功しています。
AI・センサーを活用した動線設計により、効率的な搬送が可能となり、入出庫時間の短縮・誤出庫の削減に成功しています。
人手不足解消・時間外労働削減・作業精度向上といったメリットが得られており、今後も自動荷役システムの導入拡大が期待されています。
(7)ダブル連結トラック

ダブル連結トラックを活用すれば、ドライバーの省人化や燃料費、CO₂排出量の削減に効果があり、メリットとしてドライバーの省人化や輸送コストの削減などが挙げられます。
ドライバーの省人化 | 1台で2台分の貨物を運搬し、必要なドライバー数を約50%削減 |
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輸送コストの削減 | 燃料費の低減により、長距離輸送のコストを抑制 |
CO₂排出量の抑制 | 輸送効率向上により、排出量を約40%削減 |
走行性能の向上 | セミトレーラーと比較して、狭い道路でも小回りが利く |
ダブル連結トラックは、セミトレーラーと比較すると所要占有幅は約2m狭く、最小回転半径は約1m小回りができます。
ダブル連結トラックの普及が進めば、2024年問題の解決策の一つとして、物流業界全体の効率化と持続可能な輸送の実現に大きく寄与するでしょう。
2024年問題については、以下の記事で詳しく解説しています。

(8)貨客混載
貨客混載運送は、荷物と人を同時に輸送することで、輸送効率の向上やコスト削減を実現できる仕組みです。
千葉県館山市では、以下のように農場や漁港からの農水産物を、高速バスを活用して都心エリア(新宿)へ輸送する貨客混載モデルが検討されています。

このようなアイデアから、都心エリアにおいても貨客混載の可能性が広がりつつあります。
たとえば、タクシー事業者による農水産物の配送サービスが実現すれば、都市部の消費者と生産者を直接結ぶ新たな物流モデルが構築されると期待されています。
5.まとめ
物流コストとは、物流全般にかかる費用であり、管理システムの費用や事務費用なども含まれます。
物流コストを削減するには、物流コストの内訳をすべて把握し、自社にあった方法を取り入れましょう。