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フィジカルインターネットで物流危機を乗り越える!メリットや課題等

フィジカルインターネットは、インターネット通信の仕組みを物流に応用し、業界を超えて物流リソースを標準化・共有することで、全体最適と高効率を実現する構想です。個社最適ではなく、社会全体での物流改革を目指すこの取り組みは、サプライチェーン全体の強靭化やCO₂削減にも貢献します。
本記事では、フィジカルインターネットの基本的な仕組み企業にもたらす価値導入における課題について、企業の視点からわかりやすく解説します。

目次

1.新しい物流フィジカルインターネットとは?わかりやすく解説

フィジカルインターネットは、インターネットの通信原理を物流に応用した次世代の物流システムです。ここではフィジカルインターネットの概要について詳しく紹介します。

(1)フィジカルインターネットの仕組みとは

フィジカルインターネット(Physical Internet)とは、インターネットにおけるデータ通信の仕組みを物流に応用し、輸送・保管・積替えといったプロセス全体を最適化する革新的な構想です。

経済産業省・国土交通省のロードマップ(2022年)では、フィジカルインターネットを「相互に結び付いた物流ネットワークを基盤とするグローバルなロジスティクスシステム」と定義し、2040年までの実現を目標としています。

社会全体で物流リソースを共有・標準化することで、従来の個社単位の非効率な物流網から、柔軟かつ効率的なネットワーク型の物流システムへの転換を目指します。

具体的には、発荷主から着荷主への直送を前提とする従来の方式に代わり、輸送の途中に複数の「ハブ」を設け、規格化された荷単位を中継・組み替えながら最適ルートで配送します。倉庫や輸送手段も複数事業者間で共有され、共同配送・混載が標準的に行われることで、空車率や積載効率の課題にも対応します。

このように、インターネットの「分散」「共有」「標準化」の思想を物流に取り入れることで、個別最適から全体最適への抜本的な転換を図るのがフィジカルインターネットの核心です。企業にとっては、物流コスト削減や脱炭素化、サプライチェーンのレジリエンス向上といった面でも大きなインパクトが期待されています。

(2)フィジカルインターネットと共同配送の違い

共同配送とフィジカルインターネットはどちらも物流効率化の手段ですが、そのアプローチ目指す改革の軸が根本的に異なります。

共同配送物流の部分最適を目指す取り組み
フィジカルインターネット社会全体の最適を目指す未来の構想

共同配送は、物流の仕組みの中で、特定ルートや事業者間の効率を上げる部分最適な取り組みです。
一方、フィジカルインターネットは、荷物を情報ネットのデータのように標準化し、誰もが使えるオープンな共有インフラ網を通じて、社会全体の物流を全体最適化しようとする未来の構想です。

共同配送は「今日の課題解決」、フィジカルインターネットは「未来の物流システム創造」という点で、それぞれ異なる価値を持つ物流改革です。

(3)経済産業省と国土交通省のフィジカルインターネット実現会議とは

経済産業省と国土交通省が共同で開催する「フィジカルインターネット実現会議」は、2021年10月に設置された物流の効率化持続可能性の実現を目指す国家レベルの取り組みです。

政府主導でフィジカルインターネットの社会実装を推進するため、産学官の関係者が集まり、実現に向けた制度設計や技術課題の解決策を検討する場として設置されました。

この会議では、以下のような多岐にわたるテーマが議論されています。

  • 標準化された物流コンテナの設計と導入
  • 情報共有プラットフォームの整備と連携強化
  • 輸送モード間(陸・海・空)の連携促進
  • 規制緩和や制度の見直し

2022年3月には「フィジカルインターネット・ロードマップ」が取りまとめられ、2040年までに段階的に行うべき取組が示されました。

この取り組みにより、2040年時点で11.9兆円から17.8兆円の経済効果がもたらされると試算されています。(参考:フィジカルインターネット・ロードマップ)

フィジカルインターネット実現会議は、物流の高度化を通じて、脱炭素社会の実現と経済成長の両立を目指す、日本の戦略的かつ先進的な取り組みとして、今後の企業活動にも大きな影響を与えることが期待されます。

(4)フィジカルインターネットの物流における手法

フィジカルインターネットを現実の物流システムとして実装するには、技術・制度・意識といった多方面からの包括的なアプローチが不可欠です。経済産業省・国土交通省が策定したロードマップでは、以下の6つの重点領域に分類されています。

  • ガバナンス
  • 物流・商流データプラットフォーム
  • 水平連携(業界横断の連携)
  • 垂直統合(サプライチェーン全体の統合)
  • 物流拠点の最適化
  • 輸送機器の標準化・共有化

これらの領域において実際に求められる主な手法は、以下の3つに整理されます。

①ソフトウェアの共通化

物流の最適化には、異なる事業者間でのリアルタイムな情報連携が欠かせません。共通プラットフォームによって、以下のようなデータを相互にやり取りできる仕組みが必要です。

  • 輸送計画・積載情報
  • 車両の現在位置とETA(到着予定時刻)
  • 倉庫の空き状況など

こうした情報連携を支えるには、データ形式の標準化と、既存システムとの互換性を確保するためのデータ変換ルールの整備が不可欠です。しかし、現実には品目コードや取引先コードの違いを調整する変換テーブルの作成に多くの開発工数が割かれており、EDI製品の利用だけでは限界があります。そのため、政府主導で「物流情報標準ガイドライン」の策定が進められています。

②ハードの共通化

フィジカルインターネットの実現には、物流資材の標準化と共有化も欠かせません。主な取り組みには以下が含まれます。

輸送容器(例:標準コンテナ)の規格統一

パレットやカーゴ台車などの共用化・シェアリング

倉庫・トラックなどの輸送インフラの共同利用

異なる企業・業界間で物流資源を共有することで、空車率や積載率の低下を防ぎ、CO₂削減にも貢献します。

ただし、荷物そのもののサイズや形状の標準化が前提となり、荷主企業や製造業の協力も不可欠です。

③商習慣改革

最大の壁とも言えるのが、商習慣や企業間関係の変革です。これまでの物流は、各企業が自社最適を前提に垂直統合された独自ネットワークを構築してきました。しかしフィジカルインターネットでは、社会全体でのリソース共有と連携を目指すため、従来のクローズドな発想からの脱却が求められます。

実際に国土交通省は2022年6月、官民物流標準化懇談会パレット標準化推進分科会において物流パレットの推奨規格を「1100×1100ミリ」(T11型)と公表し、2024年6月の最終とりまとめでは2026年度までの標準化実施ロードマップを策定しました。

ただし、業界内では既に100種類以上のパレットが導入されており、標準化の推進が急務となっています。

政府は、経営層に対して次のような意識変革を明確に促しています。

情報開示・協調・柔軟性を重視した企業文化の醸成

ロジスティクスをコストではなく「経営戦略」として捉える

自社完結型から、共創型のサプライチェーン運営への移行

2.物流のフィジカルインターネットが実現する社会とは

フィジカルインターネットが社会に実装された場合、単なる物流効率化にとどまらず、持続可能で包摂的な社会の実現に向けて大きな価値をもたらすとされています。ここでは、物流のフィジカルインターネットが実現する社会の展望をお伝えします。

(1)物流効率の最大化

フィジカルインターネットは、物流リソースの共有輸送の最適化を通じて、以下のように物流全体の効率を飛躍的に向上させる革新的な仕組みです。

物流リソースの共有化トラックの積載効率の向上
輸送効率化輸送コストの削減

国土交通省の自動車輸送統計年報(令和4年度)によると、営業用トラックの積載効率は約40%となっております。フィジカルインターネットでは、複数の荷主の荷物を規格化されたコンテナに混載し、共同配送を行うことで、積載効率の大幅な向上を目指します。経済産業省・国土交通省のロードマップでは、物流効率化により2030年までに輸送効率の改善を図ることを目標としています。(参考:国土交通省「自動車輸送統計調査」)」

さらに、個々の業務プロセスも効率化され、車両や施設の稼働率が引き上げられることで、結果として輸送コストの大幅な削減が期待できます。輸送効率が向上することで、トラックの走行距離や待機時間が減り、CO2排出量の削減にも直結します。これは、カーボンニュートラル実現に向けた社会全体の取り組みにおいても重要な意味を持ちます。

フィジカルインターネットは、物流リソースの最大限の活用を促すことで、経済的なメリットだけでなく、環境負荷の低減という社会的な課題解決にも貢献する、物流効率最大化のための強力なソリューションです。

(2)途切れない物流ネットワークの構築

自然災害やパンデミックなど不測の事態においても、物流機能を維持し続けるためには、柔軟で分散型のネットワークが必要です。経済産業省・国土交通省のフィジカルインターネット・ロードマップでは、「強靭性(災害にも備える生産拠点や輸送手段の多様化等)」を実現する4つの価値の一つとして位置づけており、フィジカルインターネットは以下の点で有効です。

  • 荷物の標準化による積替え・再配送の容易化
  • ハブや輸送モードの多様化と連携
  • 被災地域以外のルートへ自動切替による迅速対応

実務上、従来の物流は企業ごとの専用ルートに依存しているため、一つの経路が被災すると代替手段の確保に時間を要します。国土交通省によると、令和2年7月豪雨や令和3年1月に発生した大雪等により、サプライチェーンの寸断による国民生活への影響や経済活動の停滞が生じています。
(参考:多様な災害に対応したBCP策定ガイドライン ~荷主・物流事業者の連携による安全で強靭な物流の実現に向けて~)

このように、高い冗長性と回復力(レジリエンス)を備えた物流システムは、社会の安定と事業継続の基盤となります。

(3)質の高い雇用の創出と維持

フィジカルインターネットの導入により、物流現場の自動化・標準化が進み、労働環境の改善と生産性向上が期待されます。

  • 重労働の軽減、安全性向上(パレット化による手荷役作業の削減、フォークリフト等による機械化推進)
  • 労働時間の適正化と待遇改善(荷待ち・荷役時間の3時間から2時間以内への短縮目標、年間125時間の労働時間削減)
  • 技術・データ・ロボット運用などの新たな専門職の創出

AIによる最適な配送計画やマテリアルハンドリング機器の活用、配送ロボットの実用化などが進むことで、トラックドライバーや倉庫作業員の身体的負担は大幅に軽減されます。

現在1運行あたり3時間程度の荷待ち・荷役時間の短縮により、労働時間が適正化され、賃金水準の向上も期待できるため、深刻化する人手不足の解消にも繋がります。また、これらの新しい技術を支えるシステム開発、データ分析、ロボットメンテナンスといった専門職や、効率化された物流網を活用した新たなサービスを提供するビジネスなど、これまでになかった質の高い雇用が創出されます。

(4)誰もが利用できる物流サービスの実現

経済産業省・国土交通省のフィジカルインターネット・ロードマップでは、「ユニバーサル・サービス化(買い物弱者や地域間格差の解消等)」を実現する4つの価値の一つとして位置づけており、

中立的なオープンデータ基盤を通じ、都市部から地方・過疎地域まで、誰もが安定した物流サービスを利用できるようになります。

フィジカルインターネットが構築する共通のデータプラットフォームによって、従来は連携が難しかった様々な輸送資源(トラック、倉庫、さらには地域の小規模輸送手段など)が可視化され、効率的に結びつけられるようになります。サービスが行き届きにくかった地域や、個別のニーズにも対応しやすくなり、物流アクセスの地域間格差の是正に貢献します。

農林水産省の最新調査(2020年)によると、食料品アクセス困難人口は全国で904万人(全65歳以上人口の25.6%)に達しており、プラットフォームを通じて、過疎地域における「買い物弱者」のような食品アクセス問題に対し、複数の運送事業者や地域の店舗が連携した効率的な共同配送ルートを確立できます。

また、輸送資源が限られている地域においても、2023年6月から全国で解禁された貨客混載制度地域のバスやタクシーなどを活用した「貨客混載」のような既存資源をデータに基づいて最適化し、生活必需品の安定供給や地場産品の出荷を促進することが可能になります。これにより、従来は見過ごされがちだった物流ニーズにもきめ細かく応えることができるようになります。

フィジカルインターネットは、物流を一部のプレイヤーのためだけでなく、社会全体の共有財産としての「社会インフラ」へと進化させ、誰もがその恩恵を享受できる、より公平で持続可能な社会の実現に貢献するのです。

3.物流のフィジカルインターネット化に関する課題

フィジカルインターネットの実現は、物流の効率化や脱炭素、レジリエンス向上など多くのメリットをもたらしますが、その実装に向けては、いくつかの重要な課題を乗り越える必要があります。現在の物流業界は、以下のような構造的な課題に直面しています。

  • 生産年齢人口の減少、ドライバー不足(いわゆる「2024年問題」)
  • 災害の激甚化・頻発化による供給網の脆弱性
  • EC市場の拡大による物流需要の急増
  • 物流の供給能力と需要の不均衡

こうした状況を踏まえ、フィジカルインターネットへの移行には、以下の2つの核心的な課題への対応が求められています。

(1)オープンプラットフォームの開発と普及

フィジカルインターネットでは、異なる事業者間で情報やリソースを共有するためのオープンな物流ネットワークが必要不可欠です。現在、国土交通省の調査によるとトラック積載効率は38.2%まで低下しており、物流リソースの非効率な利用が深刻化しています。経済産業省・国土交通省のロードマップ(2022年)では、業界横断的な取組として「物流・商流データプラットフォーム」や「データ連携のためのマスタ、プロトコルの整備」が重点課題として位置付けられています。

これは現在、政府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で開発中の「物流・商流データ基盤」として具体化が進んでいます。これには、物流・商流データ基盤等の構築や、コンテナ、倉庫、車両などの物流資産を共有するための仕組み作りが含まれます。また、ネットワーク全体の最適化を図るためには、リアルタイムに可視化できるシステムの構築が求められます。

しかし、データ連携を実現するためのデータ変換ルールの作成は、開発全体の大きな部分を占める作業であり、特に品目・取引先などの独自コードを突き合わせる変換テーブルの作成がネックとなっています。根本的には、商品・場所・事業者等を世界共通のユニークIDで識別する標準化が大前提となります。既存のデータ変換機能を利用しても効率化が難しい状況です。このような共通プラットフォームやシステムの開発と普及には、技術的な課題に加え、多くの事業者の合意形成や投資が必要となります。ただし、政府試算では実現により2030年で7.5~10.2兆円、2040年には11.9~17.8兆円の経済効果が見込まれており、投資に見合う大きなリターンが期待されています。

(2)サイズや規格などの統一

フィジカルインターネットにおける効率的な積替やリソース共有を実現するためには、荷物のサイズや規格の標準化が重要です。受渡単位を統一することで、自動化や共同配送が容易になります。具体的には、パレットやコンテナ容器等の物流資材の標準化が必要です。

政府は2021年6月に「官民物流標準化懇談会」を設置し、長期的視点で物流標準化の課題や推進方策を議論・検討しており、「パレット標準化推進分科会」では先行的にパレット等の標準化について具体的な検討を進めています。

しかし、現状では様々な形状やサイズの荷物が流通しており、これらの標準化には輸送事業者だけでなく、荷主やメーカーといったサプライチェーン全体にわたる関係者の協力が不可欠となります。

実際に、物流標準化に関して我が国は遅れがちであり、フィジカルインターネット実現のための大前提として極めて重要な課題となっています

これは、それぞれの事業者の既存のオペレーションや設備への変更を伴う可能性があり、調整に時間を要する課題と言えます。また、化学品業界のように貨物の特殊性に起因した物流関連の固有の課題(輸送方法・条件が多岐にわたる等)があることも示されており、業界ごとの個別の事情も考慮した標準化の取り組みが必要となる可能性があります。

なお、2020年3月には加工食品分野で物流標準化についてのアクションプランがとりまとめられ、2021年6月にはフォローアップ会が実施されるなど、業種別の具体的な取組も進められています。

4.まとめ

フィジカルインターネットは、インターネット通信の概念を物流に応用し、物流リソースの共有化や標準化、情報連携によって、サプライチェーン全体の効率化と最適化を目指す次世代の物流システムです。

ドライバー不足やEC需要の拡大、環境問題といった現代物流が抱える深刻な課題に対し、フィジカルインターネットは「効率性」「強靭性」「良質な雇用の確保」「ユニバーサル・サービス」といった多岐にわたる価値を提供し、持続可能な社会の実現に貢献する可能性を秘めています。

その実現には、物流・商流データプラットフォームの開発や荷物のサイズ・規格の標準化など、技術的・構造的な課題、そして事業者間の連携や商習慣の改革といった取り組みが必要です。経済産業省や国土交通省は2040年を目標としたロードマップを策定し、フィジカルインターネット実現に向けた推進を図っています。

フィジカルインターネットの実現は容易ではありませんが、物流業界全体の変革を促し、より効率的で、災害に強く、環境負荷の少ない、そして誰もが恩恵を受けられる物流システムを構築するための重要な鍵となるでしょう。今後のさらなる取り組みと進展が期待されます。

監修

10年にわたる物流会社での事務経験を持ち、現場実務に精通。2024年に貨物運行管理者資格を取得し、法令遵守と実務の両面から運行管理を支援しています。

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