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標準的な運賃とは、法令を遵守して持続的に事業を行う際の参考となる運賃として、国土交通省が告示しているものです。
「標準的な運賃」は、一般にトラック事業者の荷主に対する交渉力が弱いことや、令和6年度から年間 960 時間の時間外労働の限度時間が設定されること等を踏まえ、運転者の労働条件を改善し、トラック運送業がその機能を持続的に維持していくに当たっては、法令を遵守して持続的に事業を行っていくための参考となる 運賃を示すことが効果的であるとの趣旨により設けられたものです。
本記事では、標準的な運賃の基本的な計算方法に加え、誰でも簡単に使える運賃計算ツールについてもわかりやすく紹介します。
全日本トラック協会では、日本貨物運送協同組合連合会(日貨協連)と協力して標準的な運賃計算シミュレーターを提供しています。
このシミュレーターでは、距離制運賃と時間制運賃の両方に対応しており、「地域」「車種」「距離」「時間(時間制の場合)」を入力するだけで簡単に標準的な運賃を計算できます。
WEB版とアプリ版が用意されていますが、協会会員向けのサービスとして提供されている点には注意が必要です。
トラクルGOでは、国土交通省が2024年3月時点の「標準的な運賃」に基づいた標準的な運賃シミュレーターを提供しています。利用方法は以下の3ステップです。
小型車から大型トレーラーまでさまざまな車種に対応しており、地図上から配送先を選べる点も便利な点です。
日本貨物運送協同組合連合会が提供する標準的な運賃計算シミュレーターは、App StoreとGoogle Playで無料インストールが可能なアプリです。
本アプリは小さなデバイスでも操作しやすいUIが特徴で、外出先でも簡単に運賃を計算ができます。また、令和6年3月に告示された標準的な運賃にも対応しています。
株式会社エスワイ・リンクの「距離計算・運賃計算ツール」は、大量のデータに対して一括処理ができる点が特徴です。
住所または市区町村コードとキロ程(距離)、運賃タリフ表から標準運賃を計算するマクロで、多くの配送先データに対して一括で計算できます。請求書作成の効率化や出張・交通費精算の距離確認、配送距離・運賃確認によるコスト見直しなどに役立つでしょう。
ここでは、国土交通省の定義を踏まえた標準的な運賃の概要を解説します。
国土交通省は、トラック運送業の持続可能な発展とドライバー不足の解消を目的に、2020年4月「標準的な運賃」の告示制度を導入しました。
これは、トラック運送事業者が法令を遵守しつつ、適正な運賃を収受できるよう国が示した参考価格であり、長時間労働・低賃金などが慢性化する業界の構造改善を支援するものです。
以下の動画は、標準的な運賃に関するよくある疑問の解消にお役立ていただけます。
標準的な運賃は、貸切輸送(チャーター輸送)契約を前提に設定されており、運送そのものの対価としての金額が示されています。以下の条件に基づいて設計されています。
対象契約 | 車両貸切による貨物輸送契約 (スポット・定期どちらも対象) |
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車両の種類 | 小型(2t)、中型(4t)、 大型(10t)、トレーラー(20t) |
地域区分 | 全国10ブロック(運輸局単位)ごとの 基準額を設定 |
運賃体系 | 距離制運賃・時間制運賃の 2種類が併用可能 |
標準的な運賃に含まれない費用(別途請求可能)は以下のとおりです。
料金 | 積込み・取卸し、附帯業務料、待機時間料など |
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実費 | 高速道路料金、フェリー代、燃料サーチャージなど |
その他、割増・割引の例も提示されています。
割増 | 深夜・早朝(+20%)、休日(+20%)、 冷凍冷蔵車(+20%)など |
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割引 | 往復割引、長期契約による割引など |
各運送事業者は、これらの運賃・料金・実費の適用ルールを「運賃料金適用方」として社内規定化し、荷主との契約書や覚書で明確に取り決めることが推奨されています。
物流業界において標準的な運賃が導入されたのは、持続可能な物流体制の構築と、ドライバー不足の深刻化に対する危機感が高まったことが主な理由です。ここでは、標準的な運賃が導入された背景について解説します。
物流業界では、長時間労働や低賃金といった厳しい労働条件により、深刻なドライバー不足が続いています。
厚生労働省の統計によれば、令和4年9月時点におけるトラック運送業の有効求人倍率は2.12と、全職業平均の1.20を大きく上回る高水準を記録しており、特に長距離運転を担う人材の確保が困難になっています。
さらに、年齢構成にも課題があり、若年層や女性の参入が進まず、ベテランドライバーへの依存が進行しているのが現状です。
こうした課題に対処するため、標準的な運賃制度の導入により、以下のような改善が期待されています。
これにより、ドライバーの定着率向上と人材の循環が実現し、持続可能な物流体制の構築へとつながっていくことが期待されています。
トラック運送業界では、長時間労働と低賃金という深刻な労働環境の問題が浮き彫りとなっています。
厚生労働省の統計によると、トラックドライバーの年間労働時間は他業種より約400時間長く、それにもかかわらず年間賃金は全産業平均を1~2割下回る水準にとどまっています。
このような過酷な労働環境は、若年層の参入を妨げ、人手不足のさらなる悪化を招く要因となっています。将来的には、物流の担い手がいなくなるリスクすら指摘されています。
標準的な運賃制度は適正な賃金の確保と労働時間の是正を通じて、事業者が無理なく法令を守れる環境を整え、業界全体の取引を健全化することを目的としています。この制度の普及により、ドライバーの待遇改善が進めば、人材確保と物流の安定の両立に近づくことが期待されています。
2024年4月、働き方改革関連法により、トラックドライバーにも時間外労働の上限(年間960時間)が適用されました。これは、過重労働の是正と労働環境の改善を目的としたものです。
しかし一方で、この規制は物流現場に新たな課題ももたらしています。従来の運送業では、長時間働くことで収入を補う仕組みが一般的でした。そのため、労働時間の制限によって収入が減少する懸念が広がりつつあります。
このような状況に対応するため、標準的な運賃は収入を労働時間に依存させない仕組みづくりを支援します。
適正な運賃設定を通じて、ドライバーが限られた労働時間の中でも安定した収入を得られる環境を整えることが狙いです。
また、運送事業者が荷主に対して適正価格で交渉・請求できる基盤をつくることで、業界全体の持続可能性を高める施策としても位置づけられています。
「標準的な運賃」の導入は、物流業界における公正な競争環境の実現を目指す施策の一つでもあります。
これまでの業界構造では、運送事業者が荷主企業に対して弱い立場に置かれてきました。たとえば、長時間の荷待ちや、本来契約に含まれない附帯作業(積込み・仕分け等)を無償で強いられることも少なくありませんでした。
特に中小の運送業者は、大手荷主との価格交渉が難しく、採算割れの契約でも断れない状況に追い込まれるケースが多く見られました。
こうした不公平を是正するため、標準的な運賃制度では、国が運賃水準の目安を明示しています。これにより運送事業者は、荷主との価格交渉において客観的かつ正当な根拠を持つことが可能となります。
また、荷主側にとっても、この制度を活用することで、法令に基づいた適正な取引を行えるという利点があります。
結果として、標準的な運賃は、業界全体の取引の透明性と対等性を高め、公平な競争環境を構築するための土台となっています。
物流は社会の重要なインフラとして、日常生活や経済活動を根底から支えていますが、現在は深刻なドライバー不足によってこの基盤が揺らぎつつあります。物流ネットワークの機能低下は単なる配送遅延にとどまらず、商品の品薄や価格上昇、最終的には経済活動全体の停滞をもたらす恐れがあるでしょう。
こうした社会的リスクを回避するためには、実際に運送業務を担うドライバーと事業者が安定した環境で働き続けられる条件を整える必要があります。
標準的な運賃制度によって、適正な事業運営を可能にする最低のラインを明示することで、業界の健全化につながるでしょう。
標準的な運賃は、距離制運賃と時間制運賃の運賃表をもとに算出されており、小型車から大型トレーラーまでの車種や地域ごとに詳細な金額が設定されています。
運賃表に記載された料金には、ドライバーの人件費や運行費などの変動経費と、車両費や保険料といった固定費、利潤が組み込まれています。
さらに、燃料サーチャージや高速道路料金、駐車場利用料、宿泊費用を加算することで最終的な運賃が決まる仕組みです。この多層的な料金構造により、各運送事業者は自社の業務特性や顧客ニーズにあわせて柔軟に運賃を設定できるでしょう。
ここでは、運賃の計算における各ステップについて解説します。
標準的な運賃の計算において、最初のステップとなるのが基準運賃の決定です。この過程では、国土交通省が地域別・車両別に公示している距離制運賃と時間制運賃の表から基準となる運賃を計算します。
なお、この運賃表は車両を貸切(チャーター)することを前提に設計されています。
以下の動画では、運賃の基準についてわかりやすく解説しています。
基準運賃の算出後は、運送条件に応じた各種割増率や実費を基本料金に加算します。運賃に加算される割増料金と実費の例は以下のとおりです。
たとえば、緊急性の高い医療機器を速達で発送して、高速道路を走って輸送時間を短縮した場合は、速達割増と高速道路の利用料が二重にかかる場合があります。
標準的な運賃計算の第3ステップでは、運送業務に付随する諸作業に対する料金を加算します。
荷物の積込作業や取卸作業に対する標準料金は車種別に設定されており、荷役方法(フォークリフト使用か手作業か)によっても料金区分が設けられています。
また、発着地での荷待ち時間に対しても、30分を超える場合は車種に応じた待機料金が発生する仕組みです。附帯業務料の明確化によって、今まで無償で実施されがちだった荷役作業や長時間の荷待ちに対して、明確な料金体系に基づいた請求ができるようになりました。
共同配送の場合、車両単位ではなく、個々の貨物単位で運賃を算出する「個建運賃」の計算が必要です。
個建運賃の算出方法は、基本運賃を貨物個数と基本積載率でかけた値で割ることで求めます。
具体的な計算式は以下のとおりです。
(車種別の距離制運賃または時間制運賃のいずれかおよび、この運賃に付随する料金)÷(最大積載可能個数または重量×基準積載率)
※基準積載率は各運送事業者が設定
※個建運賃の適用には条件を満たす必要があり、条件を満たさない場合は適用されません。
標準的な運賃制度は、段々と物流業界に浸透しつつあるものの、まだ完全な定着には至っていません。
令和5年度における国土交通省の調査によると、運賃交渉の場面で標準的な運賃を活用した実運送事業者は71%に達しており、一定の普及が進んでいることが確認されています。
このうち荷主から一定の理解を得られたのは75%で、令和4年度の調査結果よりも12%アップしました。
また、令和4年度の調査において、標準的運賃以上収受できている事業者は14.8%でしたが、令和5年度では20.1%までアップしたと報告されています。
まだ完全定着には至っていませんが、徐々に標準的な運賃が物流業界に浸透し始めていることがわかります。
標準的な運賃は、適正な原価に適正な利潤を加えた金額として設計されており、ドライバー不足や労働環境の改善、時間外労働の上限規制への対応などを背景に導入されました。
標準的な運賃計算ツールを導入することで、より簡単に標準的運賃を計算できます。
ツールをうまく活用して、適正な運賃に基づいた取引関係を構築することで、持続可能な物流ネットワークを実現させましょう。
企業間物流に詳しい!運行管理のプロ監修「運行管理ナビ」編集部です。