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運賃値上げ交渉に使用する資料とは?書き方や交渉時のポイントを解説

運送会社が持続可能な経営を維持するためには、荷主企業との適正な運賃交渉が不可欠です。しかし、値上げ交渉を円滑に進めるためには、単なる「値上げのお願い」ではなく、具体的な資料や根拠をもとにした説得力のある提案が求められます。

本記事では、運賃値上げ交渉を成功に導くための資料作成ポイント交渉の進め方に加え、運賃値上げ以外の経営改善策についても詳しく解説します。

目次

1.運賃値上げ交渉資料に含めるべき必須項目

運賃値上げ交渉を成功させるためには、荷主企業が納得できる根拠に基づいた資料が不可欠です。ここでは、資料に必ず盛り込むべき項目を詳しく解説します。

(1)値上げの背景・理由の明確化

今までコスト削減や業務効率化などさまざまな企業努力を重ねてきたものの、外部環境の変化により値上げが避けられない状況に至ったことを誠実に伝えます。

そして、燃料価格の上昇率人件費の増加法改正による影響など、可能な限り具体的な数値データを用いて説明します。荷主企業の理解と納得を得るためには、感情論ではなく客観的な事実に基づいた説明が不可欠です。

(2)適正運賃の算出根拠

「何となく利益が少ない」という感覚的な理由ではなく、具体的な数値に基づいた交渉を行うことが成功への鍵となるでしょう。原価計算では固定費と変動費を明確に区分して、1km当たりや1時間当たりのコストを算出します。

その結果、「A地点からB地点までの運送には最低でもいくらの運賃が必要」といったような根拠のある金額を提示できます。説得力のある交渉には、自社の経営実態を数字で把握することが不可欠です。

(3)値上げ内容の詳細

次に、具体的な値上げ率や新運賃、適用開始時期などを明確に示します。対象となる運賃体系(キロ建、時間建、個建など)ごとの改定内容を詳細に説明し、どのような貨物やルートに影響があるのかを具体的に示します。この時、現在の運賃との比較を示すと、より変化点が分かりやすくなります。

(4)顧客への影響と協力のお願い

運賃値上げが荷主企業に与える具体的な影響(コスト増加額など)を試算し、正直に伝えます。
その上で、値上げを受け入れていただくことで、どのようなメリットがあるのか、例えば運行の安定化、サービスの質維持、さらには将来的な物流コストの最適化に向けた協力関係の構築などについて説明し、理解と協力を丁重にお願いする姿勢が重要です。

(5)今後のサービス維持・向上のための取り組み

たとえば、ドライバーの労働環境改善による安全運行の徹底、最新の運行管理システムの導入による効率化、共同配送やモーダルシフトの提案による物流網全体の最適化支援など、値上げによって得られる収益が、荷主企業の物流品質向上コスト削減にどのように繋がるのかを明確に示します。

2.効果的な運賃値上げ交渉資料の構成と作成ポイント

国土交通省の「標準的運賃に係る実態調査結果の概要(令和5年度)」によると、運送業者の71%が荷主との運賃交渉に取り組んでいることが明らかになりました。
交渉を行った企業のうち75%が成功を収めていますが、希望通りの金額を得られたのは全体の39%で、残りの36%は部分的な値上げに留まっています。

令和4年度の調査では、荷主との運賃交渉を実施した事業者は69%で、そのうち成功したのは63%であったため、年々運賃交渉の活動が物流業界に浸透していることがわかります。
ここでは、効果的な運賃値上げ交渉資料の構成と作成ポイントについて解説します。

(1)視覚的に分かりやすい資料作成

運送業界の現状や自社のコスト増加、原価計算に基づいた適正運賃の根拠などを、グラフや表を用いて視覚的に分かりやすく示すことが重要です。特にコストの内訳推移運賃との比較などは、数字だけを羅列するよりも説得力が増します。これにより、荷主企業は情報の全体像を容易に把握し、提案内容をスムーズに理解できるようになります。

(2)客観的なデータに基づいた説得力のある説明

コスト増の要因(燃料費、人件費、物価上昇など)や、運送業を取り巻く法改正(働き方改革関連法等)による労働時間規制の影響などを、信頼できる公的機関の統計データや業界団体の調査結果などを引用して説明します。これにより、値上げがやむを得ない状況であることを論理的に示すことができます。

(3)丁寧かつ誠実な表現

「改定」「調整」「見直し」といった言葉を使うことで、一方的な値上げではなく、適正な価格への変更という意味合いを強調しやすくなります。たとえば、「運賃改定のご案内」や「輸送料金の見直しについて」などの柔らかい表現を選ぶことで、相手に対する心理的抵抗感が少なくなります。

(4)提示する資料の量とタイミング

資料は簡潔に要点をまとめ、多すぎても少なすぎてもいけません。
相手が短時間で内容を理解できるよう、ページ数は適度にするのが望ましいです。提示のタイミングも重要で、交渉の初期段階で全体の概要を示し、詳細なデータは相手の関心や質問に応じて適宜提示すると効果的です。

(5)事前説明と書面化の重要性

運賃値上げ資料には、荷主企業が一目で変更点を把握できるよう、現行料金と改定後料金を対比させて記載します。料金体系が複雑な場合や複数の運送サービスがある場合は、一覧表やチャートを用いて視覚的にわかりやすく整理しましょう。

また、値上げ実施時期については「20XX年○月○日発送分より適用」など、具体的な日付を明記することで誤解を防ぎます

3.交渉を成功に導くための準備と心構え

運賃値上げ交渉は、資料作成だけでなく、事前の準備と交渉に臨む際の心構えが成功の鍵を握ります。荷主企業との良好な関係を維持しつつ、自社の経営を持続可能にするための重要なプロセスです。ここでは、交渉に臨む上で不可欠な準備と心構えについて具体的に解説します。

(1)顧客ごとの状況把握と個別対応の検討

過去の取引実績や収益性、今後の取引見込みなどを分析し、顧客ごとに異なる事情重要度を把握することが重要です。
一律の値上げを提示するのではなく、顧客の状況に応じた説明や提案を検討することで、交渉が円滑に進む可能性が高まります。例えば、取引量の多い顧客に対しては、段階的な値上げや、特定のサービスに対する優遇措置などを代替案として提示することも有効です。

(2)目標設定と代替案の準備

交渉に臨む前に、自社が最低限達成したい目標運賃と、交渉の落としどころとなる代替案を複数準備しておくことが不可欠です。
目標運賃のみを提示するのではなく、顧客の反応に応じていくつかの選択肢を示すことで、交渉の柔軟性が高まります。また、代替案には、運賃以外の部分での条件変更(例:支払い条件の見直し、特定ルートの見直しなど)も含めることも有効です。これらの準備により、予期せぬ展開にも対応しやすくなります。

(3)質疑応答への備え

顧客からは、値上げ根拠や内訳、他社との比較など、様々な質問が想定されます。これらの質問に対し、論理的かつ明確に回答できるよう、事前に想定される質問リストとその回答を用意しておきましょう。特に、運賃算出の根拠となるデータや業界の現状については、正確な情報を準備しておくことが重要です。誠実な姿勢で対応することで、信頼関係の維持に繋がります。

(4)運賃以外の交渉要素

運賃交渉が難航する場合、運賃以外の要素で協力をお願いすることも有効です。
例えば、積降時間の短縮、積荷形状の標準化、帰り荷の提供、特定のルートや時間帯での集荷・配送の柔軟性など、効率化に繋がる協力をお願いすることで、全体としてコスト削減や生産性向上を図り、運賃負担増の一部を相殺できる可能性を提案します。こうした協力は、双方にとってメリットとなる場合があります。

4.運賃値上げ以外の経営改善策

運賃の値上げは経営改善の重要な手段ですが、それだけに頼るべきではありません。
経営効率を高めるための多角的なアプローチが必要です。ここでは、運賃交渉と並行して取り組むべき、あるいは運賃交渉が難しい場合に検討すべき、運送事業の収益性を向上させるための様々な方法について解説します。

(1)配送効率化によるコスト削減策

配送ルートの最適化、共同配送の推進、モーダルシフトの検討など、様々な手段で運行効率を高め、無駄なコストを削減します。最新の配車システム導入や、リアルタイムでの動態管理なども有効です。これにより、車両稼働率を高めつつ、走行距離や待機時間を減らし、燃料費や人件費の抑制を目指します。

(2)ドライバーの生産性向上策

具体的には、適切な研修によるスキルアップ、労働時間管理の徹底による過重労働の防止、そしてインセンティブ制度の導入などが挙げられます。また、最新機器の活用による負担軽減や、社内コミュニケーションの活性化も生産性向上に繋がります。これにより、ドライバーのモチベーション維持と効率的な運行を実現します。

(3)燃料費や車両維持費の見直し方法

エコドライブの徹底指導や低燃費車両への切り替え、燃料購入方法の見直しによるコスト削減を図ります。
また、定期的な車両メンテナンスの実施による故障リスク低減と修理費抑制、リースやレンタルの活用による初期投資や維持管理負担の軽減も有効な手段です。これらの取り組みにより、車両関連コストを最適化します。

5.運送業界を取り巻く現状と課題

燃料費の高騰、人手不足、労働時間規制の強化など、運送業界は多くの困難に直面しており、これらが運賃上昇の主要因となっています。2024年問題もドライバーの労働時間や収入に影響を与え、安定的な運送サービスの提供には運賃の見直しが不可欠です。こうした状況を資料で示すことで、値上げの必要性への理解を深めることができます。

6.まとめ

本記事では、運賃値上げ交渉を成功させるための資料作成に焦点を当て、その構成要素、作成ポイント、そして交渉準備について解説しました。適正な運賃収受は、事業継続とサービス品質維持に不可欠です。業界を取り巻く厳しい現状を踏まえ、取引先との建設的な対話を通じて相互理解を深めることが、持続可能な物流を実現する鍵となります。

監修

企業間物流に詳しい!運行管理のプロ監修「運行管理ナビ」編集部です。

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