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物流の省人化とは?プロセスごとのソリューションと成功事例、課題等

物流の省人化は、単なる人件費削減策ではなく、安定供給・生産性向上・働きやすい職場づくりを同時に実現するための経営戦略です。

本記事では、倉庫自動化や輸配送の効率化、データ活用などの最新ソリューションの全体像、先進企業の成功事例、さらに導入を成功させるための具体的な手順や注意点までを解説します。

目次

1.物流省人化の必要性と課題背景

現代の物流業界において、少子高齢化による労働力人口の減少に加え、2024年問題に代表される労働時間規制の強化が重なり、人手不足は経営に直結する深刻な課題です。

ここでは、物流省人化の必要性と課題背景について解説します。

(1)少子高齢化と労働力人口の減少

引用:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/11/dl/01-1-3.pdf

労働力人口は2000年代後半から減少に転じ、団塊世代の退職を契機に高齢化の影響が顕著となっています。我が国の生産年齢人口(15~64歳)は1990年の8,726万人(総人口比69.5%)をピークに減少に転じており、2023年10月時点では、7,395万人(同比59.5%)まで減少しています。生産年齢人口比率は1990年の69.5%から2050年には51.8%まで低下すると見込まれ、逆に高齢化率は4割近くに達する予測です。

運輸業では全産業平均に比べ55歳以上の割合が高く、29歳以下の割合が低いなど高齢化が深刻です。対策を講じなければ2024年度に輸送能力が約14%(4億トン相当)不足し、2030年度には約34%不足する見通しです。

若年層の労働力も縮小しており、採用難は物流現場で常態化しています。人材確保だけでは対応が困難な状況となっており、省人化や自動化によって少人数でも安定供給を維持できる仕組みづくりが不可欠です。

(2)2024年問題と働き方改革関連法の影響

2024年4月から施行された働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働は「年960時間」という明確な上限規制が適用されました。(出典:https://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/content/000308343.pdf

その結果、輸送力の縮小が避けられず、2030年には全国で約35%、地方では平均41%の貨物が運べなくなると予測されています。影響は以下の関係者に及びます。

区分主な影響
事業者側(トラック会社)・輸送力の低下による利益の減少・人材不足によって事業継続が困難に・運賃値上げ交渉の必要性・固定費負担の相対的増加
荷主・物流コストの増大 ・輸送依頼の制約 ・スケジュールの見直し・配送リードタイムの長期化・長距離輸送ができなくなる
トラックドライバー・残業規制による収入減少・担い手不足による業務負担の増加・労働時間の負担減少・勤務環境の改善
消費者・当日・翌日配送などの短納期サービスの制限・再配達削減の取り組みとして、確実に受け取れる日時・場所の指定が必要

このように2024年問題は、ドライバー不足を背景に物流の供給網を大きな影響を与え、業界全体に省人化と効率化の加速を促す重大な転機となっています。

参考:https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/00001_00251.html

(3)EC市場拡大と需要増加のミスマッチ

引用:https://www.meti.go.jp/press/2024/09/20240925001/20240925001.html

BtoC-EC市場は2014年の約12.8兆円から2023年には24.8兆円へ倍増し、特に物販系を中心に拡大を続けています。2014年から2023年にかけて物販系EC市場は約2.2倍に拡大しており、スマートフォン経由の比率も年々上昇し、2023年には約60%を占める状況です。コロナ禍でオンライン購買が定着したことも、荷物量急増の要因となりました。

宅配需要も連動して拡大しており、2023年度の宅配便取扱個数は50億733万個 となりました。EC市場の拡大に伴い宅配便取扱個数も増加していくことが見込まれます。

一方で、人材供給は少子高齢化や2024年問題により追いつかず、輸送力と需要のギャップが拡大しています。繁忙期には配送遅延や受注制限が課題となり、安定供給の確保が企業にとって重要な経営課題となっています。こうした需給のミスマッチを解消するには、省人化や効率化による供給力の向上が欠かせません。

(4)人手不足が企業競争力に与えるリスク

引用:https://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr23/pdf/chr23_1-4.pdf

トラックドライバー数は1995年の98万人をピークに減少し、2020年には77.9万人まで落ち込みました。全就業者に占める割合も低下し、2024年1月の運送業における有効求人倍率は3.39倍で、産業全体の1.21倍と比べ約2.18倍の採用難易度となっており、物流業界の担い手不足は深刻化しています。人手不足が企業競争力に与える主なリスクは次のとおりです。

リスク内容
輸送能力の制約ドライバー不足により納期遅延や配送制限が発生し、取引先からの信頼低下を招く
労働負荷の集中限られた人員に残業や業務負荷が偏り、離職を引き起こす悪循環が発生
コスト増大人材確保のための賃金引き上げにより物流コストが増加し、利益率が低下
サービス品質の低下荷待ち時間や商慣行による過剰サービスが労働生産性を押し下げ、競争力が低下
地域格差の拡大特に東北や四国といった地方部でひっ迫し、地域間の物流格差が拡大荷待ち時間や商慣行による過剰サービスが労働生産性を押し下げ、競争力が低下

物流は産業全体を支えるインフラであるため、一社の輸送力不足がサプライチェーン全体に波及します。EC市場拡大や2024年問題を背景に、人手不足を放置すれば市場シェア喪失や競合との格差拡大につながるため、省人化は事業継続の必須条件といえます。

2.物流省人化のソリューションとは?プロセスごとに紹介

倉庫作業のロボット化、輸配送の効率化、データ活用による需要予測や品質管理まで、省人化の手段は多岐にわたります。国土交通省では、単なるデジタル化・機械化ではなく、それによりオペレーション改善や働き方改革を実現し、物流産業のビジネスモデルそのものを革新させることで、これまでの物流のあり方を変革する「物流DX」を推進しており、安定供給やサービス品質の維持に直結する取り組みとして注目されています。

ここでは、物流プロセスごとに導入が進むソリューションについて解説します。

(1)倉庫プロセス|ロボット化と自動化による効率化

倉庫作業は人手依存度が高く、運搬・保管・仕分けなどをロボットや自動化システムに置き換えることで、作業効率と精度を大幅に向上させることができます。

経済産業省では物流効率化のための設備・システム投資を支援しており、導入促進が図られています。

ソリューション概要効果
AGV/AMR(無人搬送ロボット)フォークリフトや台車の代替として商品を自律搬送人員配置を削減、安全性向上
ピッキングロボット・自動倉庫システム入出庫・ピッキングを自動化作業スピード向上、誤出荷リスク削減
自動仕分け・梱包ライン出荷工程を自動化し大量処理を可能に24時間稼働・繁忙期対応・安定出荷
RFID・AI検品システムRFID等自動検品システム、AIカメラ・システムによる品質管理自動化検品制度向上、人的ミス削減

国土交通省の「物流施設におけるDX推進実証事業」では、業務効率化や働き方改革のための自動化・機械化・デジタル化により、多様な人材の確保・育成を推進しています。これらの導入は、生産性向上・人件費削減・人手不足対策を同時に実現し、事業継続性の確保に直結します。以下の報道動画では、自動搬送ロボットの動きをご確認いただけます。

(2)輸配送プロセス|TMS・自動運転による省人化

輸配送も人手不足の影響を大きく受けやすい領域であり、省人化の導入効果が企業競争力に直結します。国土交通省では、自動化・機械化、デジタル化によって物流業務の効率化や生産性向上に繋がった先進的な取組を推進しており、AIや自動運転などの技術革新により、効率性と安定供給の両立が可能になりつつあります。

ソリューション概要効果
TMS(輸配送管理システム)AIで最適ルートを算出し、複数便を統合配車時間短縮、燃料費削減、リードタイム短縮
自動運転トラック高速道路での隊列走行などによる自動運転の活用ドライバー不足緩和、安全性向上、長距離輸送の効率化
中継輸送拠点間でドライバーを交代し、1人当たりの拘束時間を短縮労働時間規制への対応、長距離輸送の継続性確保
自動発着システム自動運転トラックが自動駐車・自動発信する技術発着作業の無人化、作業員配置不要
ドローン・ラストワンマイル配送実証実験が進む新配送手段(都市部・過疎地対応)混雑回避、空白地域の供給確保、配送網の多様化

中継輸送は、長距離区間を複数のドライバーで分担する仕組みであり、過労防止と輸送継続性の両立に有効です。特別なツールなしに2024年問題による労働時間の上限規制にも対応できますが、人手や設備投資が必要になるなどの課題もあります。

トラックの自動運転の実証実験に関して、2025年6月時点でレベル2の自動運転で神奈川県綾瀬市から兵庫県神戸市までの拘束区間約500kmの走破に成功しています。レベル2は運転支援の段階で、システムが加減速や車線維持を担いますが、常にドライバーの監視が必要です。

一方、2027年にはレベル4の実用化を目指しており、特定の条件下(例:高速道路区間など)ではシステムが完全に運転を担い、ドライバーの介入なしで走行できるとされています。これが実現すれば、長距離輸送におけるドライバー不足解消や労働時間規制への対応に大きな効果をもたらすと期待されています。

引用:https://t2.auto/news/2025/0613.pdf

(3)情報管理プロセス|IT・データ活用による最適化

ITシステムとデータ分析の導入は、人による判断や管理業務の一部を自動化・支援し、安定したオペレーションを実現します。

ソリューション概要効果
WMSによる在庫・入出庫管理自動化在庫数やロケーションをリアルタイムで可視化し、誤出庫や欠品を防止・確認作業を削減し、少人数でも正確な倉庫運営を実現参考事例:Johnstone Supplyでは、WMS導入により複数倉庫の在庫を一元管理し、繁忙期でも効率的な出荷対応を実現
AIによる需要予測と予知保全販売データや季節要因を分析して需要を予測し、設備稼働データから故障を予兆過剰在庫や欠品リスクの抑制、突発的停止を回避参考事例:経済産業省AI導入ガイドブックでは、ホームセンターでの需要予測により仕入制度が向上し、過剰在庫の抑制及び欠品防止の効果を確認。(売上前年比124%増など)
IoTセンサーによるリアルタイム可視化温度・湿度・振動など環境条件や車両・機器の稼働状況を常時モニタリング品質管理の精度向上、人による点検・記録作業を大幅削減参考事例:島津製作所らの実証事業において、荷役作業の可視化や識別率90%以上の成果を確認

こうしたデータ活用により、「人による手作業」領域を減らしつつ、精度の高い意思決定と効率的なオペレーションを実現できます。結果として、効率的な人員配置により安定した物流品質を確保でき、競争力維持につながります。以下の動画では、倉庫管理システムの特徴と類似システムをわかりやすくご確認いただけます。

(4)人材プロセス|多能工化と組織改善による持続力強化

省人化は単に人員を減らすことではなく、既存人材の能力を最大限に活かし、限られた人手で成果を最大化する仕組みづくりでもあります。組織改善と教育の工夫により、現場はより柔軟かつ持続的な体制を整えることができます。

ソリューション概要効果
デジタルツール・AR/VRによる教育効率化マニュアルや現場指導に代わり、シミュレーション型トレーニングを導入習熟度向上を短期間で実現し、新人教育コストを削減参考事例:UPSでは、VRを活用したドライバー研修プログラム「Integrad」において、実際の道路状況をシミュレーションし、ドライバーの危険認識能力を向上させています。
作業者支援型ロボット(協働ロボット)重量物の持ち上げや反復作業を補助し、作業者の負担を軽減労災リスク低減と作業効率向上、安全性の確保に貢献参考資料:厚生労働省のガイドラインでは、VR技術を活用した労働安全衛生教育の効果として、危険作業の疑似体験によるリスク認識の向上が挙げられています。

こうした取り組みは、人材不足を補うだけでなく、従業員の定着率向上・労災リスク低減・業務品質の安定化といった副次効果ももたらします。つまり、省人化と働きやすい職場づくりは表裏一体であり、組織改善は長期的な競争力強化にもつながります。

(5)ラストワンマイル配送|ドローン・ロボットによる新たな供給網

ドローンや配送ロボットの活用は、人手不足の解消だけでなく、従来の配送網を補完する新しい供給手段として期待されています。

ソリューション概要効果
ドローン配送小型貨物を短距離・直行ルートで輸送し、交通混雑を回避
※国土交通省の令和5年度実証事業では、レベル4飛行による配送プロセスの確立とCO2排出量削減効果を検証
都市部での即時配送、災害時や過疎地域での配送確保に有効CO2排出量削減と配送効率化を同時実現
自律走行型配送ロボット人や車の往来があるエリアで自律走行し、玄関先まで商品を届ける※経済産業省が2024年7月に立ち上げた「より配送能力の高い自動配送ロボットの社会実装検討ワーキング・グループ」では、社会実装に向けたロードマップを取りまとめている。人手不足解消と同時に、非対面ニーズへの対応が可能監視者1名で複数台運用による配送効率向上

以下の報道動画では、フードデリバリーにAIロボットが活用されている事例が紹介されています。
将来的に配達員の不足が見込まれる地域で、こうしたロボットが活躍する可能性があります。

3.物流省人化の成功事例

ここでは、物流現場における省人化の成功事例を解説します。

(1)AGF導入で年間3000時間の残業削減と安全性向上

引用:https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001609016.pdf

日本通運では、自動フォークリフト(AGF)4台とオートレーター(自動垂直昇降機)2基を連携させ、倉庫内の出荷準備作業を自動化しました。

特に夜間の出荷準備を完全無人化できたことに加え、日中の繁忙時間帯には有人フォークリフトの補助として活用し、入出庫作業の効率化にも寄与しています。

(2)車型物流支援ロボットで人件費を年間1,080万円削減

引用:https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001609016.pdf

開発・製造受託サービス業のライジングは、自律移動機能を搭載した台車型物流支援ロボットを3台導入し、工場内の搬送を完全自動化しました。

資材搬入から製造・検査・出荷工程までの搬送を無人化し、タブレットで柔軟にルート設定できる利便性と、外部機器との連携による階層間搬送の自動化を実現しています。

月間290kmに及ぶ搬送をロボットが担い、3名分の労働力を代替が可能となりました。年間1,080万円のコスト削減につながり、わずか1年で導入費用を回収する成果を挙げています。

(3)ハンドリフト牽引型AGVによる生産性向上

引用:https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001609016.pdf

ダイキン工業の西日本パーツセンターでは、ハンドリフト牽引型の自動搬送装置(AGV)を導入し、物流倉庫で作業負担が大きい中物部品の入出庫搬送を自動化しました。

ダイキン工業の西日本パーツセンターでは、ハンドリフト牽引型の自動搬送装置(AGV)を導入し、物流倉庫で作業負担が大きい中物部品の入出庫搬送を自動化しました。

最長往復約500mもある搬送作業が自動化され、生産性が15%向上し、2名相当の省人化という効果を得ました。繁閑差に応じてAGVのレンタル台数を増減させることで、季節変動にも対応できています

4.物流の省人化を成功させるためのポイント

物流省人化を軌道に乗せるには、最新技術の採用だけでなく、経営判断から現場運用まで一貫した設計が欠かせません。ここでは、導入の成否を左右する実務上のポイントを解説します。

(1)現状分析と目的の明確化

省人化を成功させるためには、まず 現状の課題を正確に把握し、数値目標と投資効果を明確化することが出発点です。国土交通省の事例集では、成功している物流DX事例は「取組に至った背景」「導入した技術」「得られた効果」の3つの視点で整理されており、これにより、適切なソリューションを選択でき、社内合意形成や成果測定もスムーズになります。

観点内容具体例
課題の洗い出し非効率・人手不足の集中領域を特定倉庫内ピッキングの遅延/配車業務の属人化/繁忙期の人員不足
目標の明確化数値で成果を設定リードタイム20%短縮/作業コスト15%削減/出荷精度99%以上
投資効果の試算導入コストと削減効果を比較し回収計画を立案人件費削減額と導入費用の損益分岐を試算
計画の具体化実施体制とスケジュールを現実的に設定段階的導入計画/担当者の明確化/期限の設定
費用対効果の検証物流DXの費用対効果を定量的に評価ROI計算/投資回収期間の算定/KPI設定

こうしたプロセスを踏むことで、導入する技術やシステムを的確に選定でき、投資判断の根拠を明確化できます。結果として、社内の合意形成もスムーズになり、導入後の成果測定も容易になります。

国土交通省の事例からも、目的の明確化・現実的な体制・高い費用対効果が成功の鍵であることが示されています。

(2)スモールスタートと従業員との協力体制

省人化の取り組みを成功させるには、最初から全社的な大規模導入を狙うのではなく、小規模な範囲で実証しながら拡大していく戦略が効果的です。国土交通省は物流DXの普及に向けて、中小を含む物流事業者の自動化・機械化・デジタル化による効率化の先進的な取組事例を段階的に展開する方針を示しており、課題を把握しながら改善を積み上げることが重要です。同時に、従業員の理解と協力を得る体制を築くことで、現場に定着しやすくなります。

(3)補助金の活用

たとえば、物流効率化等推進事業費補助金(中小物流事業者向け)では、物流施設を保有・使用する物流関係事業者が、自動化・機械化機器の導入やシステム構築等を行う場合、導入費用の 1/2(50%以内) が補助対象となる間接補助制度となる場合があります。システム構築・連携は1社あたり上限2,500万円、DX機器導入は同じく上限1億1,500万円となっています。

このような制度を活用することで、初期投資を抑えてテクノロジー導入の導入ハードルを下げることが可能です。また、補助対象にはトラックドライバーの荷待ち・荷役削減や施設の省人化設備も含まれるため、自社の課題に応じた柔軟な活用が期待できます。

参考:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/koubo3_.pdf

5.まとめ

倉庫作業の自動化、輸配送の効率化、IT・データ活用、そして人材活用といった多角的なソリューションを組み合わせ、自社に合った形で導入を進めることが重要です。

現状分析から始め、スモールスタートで着実に効果を検証しながら、従業員との協力体制を築き、システム連携と保守体制を整備することで、持続可能な物流体制の構築が可能となるでしょう。

監修

10年にわたる物流会社での事務経験を持ち、現場実務に精通。2024年に貨物運行管理者資格を取得し、法令遵守と実務の両面から運行管理を支援しています。

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