ドライバーの拘束時間が16時間を超えてしまった場合、改善基準告示違反である可能性が高いため、運行管理者は直ちに是正措置を講じる必要があります。
- 1日の拘束時間は原則13時間以内
- 特例での延長が適用される場合は最大16時間
- 予期し得ない事象に遭遇した場合は対応に要した時間を除くことができる
参考:トラック運転者の労働時間等の改善のための基準|厚生労働省
この記事では、ドライバーの拘束時間が16時間を超えた場合に運行管理者の実施すべき対応や罰則、改善基準告示に基づく拘束時間等の基準と例外についても解説します。
1.ドライバーの拘束時間が16時間を超えた場合の運行管理者の対応
ドライバーの拘束時間が16時間を超過した場合、運行管理者が実施すべき対応はドライバーの休息期間を確保し、連続運転時間等の他の取り決めにも違反がないかを確認することです。
ここでは、ドライバーの拘束時間が16時間を超えた場合の運行管理者の対応について解説します。
(1)ドライバーの休憩と休息期間を確保する
ドライバーの拘束時間が16時間を超過している場合、直ちに業務を停止して休憩・休息を取るよう促す必要があります。
ドライバーを長時間業務に拘束することは、疲労に起因する交通事故や健康リスクを増大させます。
ただし、2人乗務時の特例と事故や故障等の予期し得ない事象等に該当する場合には1日の拘束時間が16時間を超えることが認められます。
2人乗務時の特例 | 1日の最大拘束時間を20時間まで延長できる |
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予期し得ない事象 | 対応に要した時間を1日の拘束時間から除くことができる |
2人乗務時の特例と予期し得ない事象については、適用に際していくつかの要件を満たす必要があります。
(2)拘束時間以外に改善基準告示の違反がないかを確認する
拘束時間16時間を超えている場合、その他に改善基準告示に違反がないかを確認し、必要に応じて運行計画の調整をする等の対応が求められます。
トラックの改善基準告示は度々見直しが行われており、直近では2024年4月から改正された改善基準告示が適用されています。
そのため、運行管理を適切に行うには改善基準告示に基づく拘束時間と休息時間の原則と例外を正しく把握する必要があります。
2.改善基準告示に基づく拘束時間と休息期間の原則と例外
拘束時間と休息期間の原則と例外等を把握するには、前提として改善基準告示における1日の拘束時間の定義を把握しておく必要があります。
拘束時間でない時間は休息期間となるため、拘束時間と休息期間を一体として考えるとわかりやすいでしょう。
- 始業時刻から起算して24時間
- 拘束時間には運転や作業時間、休憩、仮眠時間も含む
改善基準告示における1日の拘束時間とは、ドライバーの始業から起算した24時間を指し、使用者に拘束されている時間すべてです。日付変更時間でリセットされるわけではないため、注意する必要があります。
ここからは、改善基準告示に基づく拘束時間と休息時間の原則と例外について解説します。
(1)拘束時間の原則と特例、例外
改善基準告示において、ドライバーの1日あたりの拘束時間は原則13時間以内と定められていますが、特例や予期し得ない事象があれば13時間を超えられる場合があります。
1日の拘束時間 | ||
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原則 | 13時間以内 | |
例外 | 宿泊を伴う長距離輸送 | 16時間以内 ※週あたり2回まで |
特例 | 隔日勤務 | 21時間以内 |
フェリー乗船時間 | 24時間 ※2暦日の合計 | |
2人乗務時 | 20時間以内 |
また、1か月・1年あたりの拘束時間の上限にも注意が必要です。
1か月 | 原則:284時間以内例外:310時間以内 |
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1年 | 原則:3,300時間以内例外:3,400時間以内 |
労使協定を締結することで、拘束時間を年間3,400時間以内まで延長することはできますが、1ヶ月あたり310時間の拘束を6ヶ月以内に収めること、284時間超は連続3ヶ月までなどの条件を満たすことも必要です。
参考:https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice
以下では、拘束時間の例外や特例について解説します。
①隔日勤務
また、隔日勤務では、以下の条件を満たすことで2暦日の拘束時間を24時間まで延長することができます。
仮眠施設で4時間以上の仮眠を与える2週間あたり3回まで2週間あたりの拘束時間が126時間を超えない
ただし、隔日勤務特例は、労働者の健康を考慮し、業務上やむを得ない場合に限られます。
②フェリー乗船時間
ただし、以下の条件があります。
下船後の休息期間は、下船時刻から勤務終了時刻までの時間の2分の1を下回らないこと乗船時間が8時間を超えた場合、下船時刻から次の勤務とすること
上図では、決められた休息期間である9時間から乗船時間を引いた1時間が、残りの休息期間になります。しかし、下船後に4時間の拘束時間があるため実際に必要な休息期間はその2分の1である2時間以上となります。
③2人乗務について
ただし、以下の条件を満たす必要があります。
ベッドの条件 | 休息設備が車両内ベッド(長さ198cm、幅80cm以上の連続した平面)車両に身体を伸ばして休息できる |
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運行終了後の休息期間 | 運行終了後に11時間以上の休息期間が必要 |
(2)休息期間の原則と特例
1日の休息期間 | |
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原則 | 継続11時間以内で9時間を下回らない |
特例 | 継続8時間以上・長距離貨物運送で宿泊が必要な場合 継続3時間以上(1日あたり)・分割した休息期間 |
休息時間は継続11時間以上与えられるよう努めることを原則とし、9時間を下回らない仕組みが求められています。なお、輸送中の休憩時間は就業中の拘束時間に含まれるため、休息時間としてはカウントされません。
また、休息時間9時間の原則を一度でも下回った場合、運行終了後に12時間以上の休息期間を与えることが求められている点も、注意しなければなりません。
参考:https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice
以下では、休息期間の特例について解説します。
①長距離貨物運送における休息期間
通常、運行終了後は9時間以上の休息期間の確保が求められます。しかしこれが業務の都合などから確保ができない場合、1ヶ月程度を限度とした一定期間内の、全勤務回数の半分を目安に休息期間を拘束時間の途中、あるいは拘束時間の経過直後に提供することが認められています。
②分割した休息期間
分割休息は1回につき3時間以上となるよう設定しなければならず、合計で2分割なら10時間以上、3分割なら12時間以上が求められます。なお、3分割の休息が連続で発生しないよう努めることも必要です。
(3)連続運転時間の基準と例外
連続運転時間 | |
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原則 | 最大4時間 |
特例 | 最大30分まで延長が可能・サービスエリア、パーキングエリア等に駐車又は停車できない場合に適用 |
ドライバーが休憩を取らずに運転して良いのは原則最大4時間であり、運転中断時に休憩時間を設けなければいけません。
なお、連続運転時間の定義に関して、10分未満の運転中断が3回以上連続しないこともルールとなっており、十分な休憩時間を確保しなければなりません。
例外として、混雑などの影響によりSAやPAに駐車することが難しいなどの問題が発生した場合にのみ、連続運転時間を4時間30分まで延長可能です。
【参考動画】
(4)予期し得ない事象
業務上、予期し得ない事象が発生した場合には、その対応時間として1日の拘束時間、2日平均の運転時間、そして連続運転時間から除くことができます。例えば、乗務車両の予期せぬ故障や、乗船予定のフェリー欠航、災害発生に伴う正常運行不可といったケースです。
この場合、運転日報にその旨を記録したり、事象の発生を客観的に確認できる公式情報の記録も求められます。
なお、勤務終了後は通常通りの休息時間をドライバーに与えることも必要です。
3.ドライバーの拘束時間が16時間を超えた場合の罰則
ドライバーの拘束時間に違反した場合、運行管理者は以下のような罰則が科されるリスクがあります。
- 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 労働基準監督署からの指導
拘束時間が16時間を超えた時点で直ちに罰則を受けるわけではありませんが、その可能性も理解しておきましょう。
(1)6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性がある
1日あたりの拘束時間が16時間を超過した場合、労働基準法によって定められる時間外労働時間規制に抵触する恐れがあります。2024年の改正法施行以降、年間上限規制が960時間と、従来よりも短くなっているためです。
なお、960時間という上限は一般労働者よりも長く設定されており、将来的にはさらに短くなることが予定されています。
現在、一般労働者の時間外労働上限は720時間であるため、ドライバーの上限規制もこれに準ずる形になることも、想定しておくべきです。
(2)労働基準監督署の指導が入る場合がある
改善基準告示に基づく拘束時間や休息時間の目安などは、厳密に言えば法的拘束力はありません。そのためこれらを守らなかった場合でも、直接罪に問われることはなく、それに起因する労働基準法違反で罰せられる可能性のみとなります。
ただし、改善基準告示の違反が認められると、所轄の労働基準監督署からの指導が入り、自主的な改善を促されることがあります。また重大な違反が疑われる場合は、事業者が行政処分を被るリスクが残る点は知っておくべきです。
改善基準告示は、トラックドライバーや運行管理を行う事業者を対象としたルールであり、荷主には適用されません。しかし、荷主側の都合による長時間の荷待ちなどが発生し、基準遵守を阻害する要因となっている場合、協力を要請できることが定められています。
5.運行管理における時間計算を効率的に行う方法
運行管理を実施する上で考えるべき拘束時間や休息期間のルールは細かく定められています。そのため、運行管理を正しく行うには、従来のような方法では対応が難しいケースも出てくるでしょう。
近年は、運行管理業務効率化や正確性改善に向けた、多様な取り組みが事業者の間で採用されています。以下の2つの方法は、主な時間計算の効率化手法です。
(1)エクセルで管理する
手軽に行えるのは、エクセルを使った運行管理です。あらかじめ運行管理に必要な計算式をエクセル上で組み上げることにより、ドライバーごとの運行管理を正確に行えます。
ただ、エクセルを使った計算は、ある程度ノウハウがなければ運用やアップデートが難しいことから、業務の属人化につながるリスクがあります。また、データの取り込みなどは手動で行う必要があり、業務自動化に限界があるというパフォーマンスの制約も懸念するべきでしょう。
(2)アプリまたはシステムを導入する
上述の問題をクリアできるソリューションが、運行管理に特化したアプリやシステムの導入です。近年は事業者向けの管理システムがさまざまな会社から提供されており、これらを活用することで、業務の自動化を進められます。
専用アプリを使えば、エクセルのように計算式を組み上げる必要がなく、導入してすぐに使い始めることができます。また、運用の方法も非常にシンプルなものとなっているため、エクセルはおろか、あまりPCスキルに自信がないという方でも安心して利用可能です。
6.まとめ
拘束時間が16時間を超えた場合でも、直接事業者に罰則が与えられるわけではありません。しかしドライバーの健康や交通安全にリスクをもたらしたり、労働基準法違反となったりするリスクがあることから、必ず防止に取り組まなければなりません。
近年は運行管理を正確・迅速に遂行できる、便利なアプリやシステムも登場しています。手動での管理は、ルールが細かく厳しくなっている昨今においては困難を伴うため、これらの活用で、現場の効率化と働き方改革を促進していくべきでしょう。