荷待ち時間の改善が求められている背景には、人手不足の深刻化や法規制の強化が挙げられます。2024年4月から物流業界にも働き方改革関連法が改正され、ドライバーの拘束時間等が短くなることを起因とする物流の2024年問題も課題となっています。
限られた時間を有効活用するためにも、荷待ち時間の改善が有効です。
この記事では、荷待ち時間の改善方法とその原因とともに解説します。
1.荷待ち時間とは?
便宜上はドライバーの労働時間に含まれるものの、業務全体における非生産的な時間として問題視されています。ここでは、荷待ち時間の定義や影響等を解説します。
(1)荷待ち時間とは?
荷待ち時間の間、主な荷役作業は倉庫業務担当者が担います。そのため、荷待ち時間中は、ドライバーが待機している状態です。
本来の業務である輸送ができない状態にあるため、スケジュールの乱れによりドライバーの長時間労働の原因や全体の生産性低下につながります。
荷待ち時間は、ドライバーの長時間労働の原因となっているだけでなく、2024年の働き方改革法案施行により、ドライバーの輸送可能距離が短くなる原因でもあります。
①荷待ち2時間ルール
荷待ち2時間ルールとは、荷主事業者および物流事業者に向けて、荷待ち時間は最大2時間までとする取り決めです。
荷待ち時間の問題を放置すると、業界全体の競争力低下や持続可能性の阻害等の深刻な問題があるため、経済産業省・農林水産省・国土交通省によって荷待ち時間でいたずらに何時間も浪費しないよう、ガイドラインで一定のルールが設けられています。
現状では荷待ち時間は最大2時間以内となっているものの、ガイドラインによる目標は1時間以内と提示されており、荷主企業には運送事業者が貨物自動車運送事業法等の法令を遵守して事業を遂行できるよう、配慮をすることが義務付けられています。
②荷待ち時間の記録義務付け
荷主の都合により30分以上の荷待ち時間が発生する場合、トラックドライバーはどれくらいの時間で発生したのかを乗務記録に記載する義務があります。
いわゆる乗務記録の一環として荷待ち時間の発生時間を記録しなければなりませんが、そのほかの時間についても記録が義務付けられています。
記録が義務付けられているものとしては、以下の内容があります。
- 荷待ち待機の開始と終了の時刻
- 附帯業務の開始終了時刻
- 荷積み荷下ろしの開始・終了時刻
- 集荷地点への到着時刻集荷地点の出発時刻
また、これらの記録は以下の車両が対象となった場合に、義務が発生します。
対象となる車両 | 8t以上の中型トラック11t以上の大型トラック |
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(2)荷待ち時間の平均と現状
荷待ち時間に最大2時間までというルールが設けられているのは、前述の通りです。
では実際に、現状ではどれくらいの荷待ち時間が発生しているのでしょうか。ここからは、荷待ち時間の平均と現状を紹介します。
国土交通省が発表しているデータによると、荷待ち時間を取り巻く現状は以下の通りです。
平均 | 1運行あたりの平均荷待ち時間:1時間34分1回あたりの平均荷待ち時間:1時間13分 |
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現状 | 荷待ち時間の発生の認識割合は、実運送が73.4%元請は54.8%、荷主は約20% |
平均で発生している荷待ち時間は、およそ一回につき1時間半で、全体としては30分から1時間が大多数を占めています。
3〜4時間にのぼる荷待ち時間が発生することは稀ですが、2時間を前後するケースは3割弱ほど発生していることがわかります。
さらに荷待ち時間の長さは輸送物の種類によっても傾向があります。紙やパルプを運ぶ場合、最も荷待ち時間が発生しやすく、平均1時間程度発生しているとのことです。
また荷主企業と運送事業者、元請企業で荷待ち時間の発生に関する認識にギャップがあり、荷主企業が強く認識していないことも問題視されています。荷待ち時間の発生に対する認識の割合は、荷主がおよそ20%と運行に関わる関係者間で最も低いことがデータによって示されています。
(3)荷待ち時間が及ぼす影響
荷待ち時間の発生による主な悪影響としては、業務効率の低下や労働環境の悪化などが挙げられます。荷待ち時間によって、以下の影響を及ぼす恐れがあります。
- 業務効率の低下
- 労働環境の悪化
- 企業イメージの低下
- 従業員の士気低下
- 営業機会の損失
荷待ち時間の非生産性は、近年における拘束時間の規制も相まって多様な悪循環が付随して生じます。
たとえば、余計な就業負担をもたらすことで労働環境の悪化により長時間労働の常態化につながり、交通事故や健康状態の悪化による人材不足の加速が進んでしまうリスク等です。
実際に、運送業は労働環境が起因していると思われる労災支給決定件数が他の業種と比較して最多であり、業界全体で取り組むべき重要な課題です。運送事業者だけでは解決が難しい側面もありますが、荷主や物流全体の連携を強化し、具体的な対策を検討することが求められています。
(4)荷待ち時間の通報とは?
荷待ち時間は業界で強く問題視されているのにも関わらず、改善に困難を要するのは、運送事業者と荷主企業間のパワーバランスや認識のギャップ、商習慣など複雑な問題が絡み合うためです。
厚生労働省では、荷待ち時間の改善に向けたメールでの荷待ち時間の通報窓口を設けています。
問い合わせ内容は、厚生労働省から荷主・元請運送事業者に向けて要請や情報提供となる場合があり、自社だけでは対処が困難な場合でも第三者を交えて改善を推進しやすくなる場合があります。
2.荷待ち時間の原因と物流の2024年問題の関係性
荷待ち時間の発生は、物流の2024年問題への対応としても急務となっている課題です。
ここでは、荷待ち時間の主な原因と物流の2024年問題の関係性について解説します。
物流の2024年問題について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
内部リンク:KW「物流 2024 年 問題」
(1)荷待ち時間の主な原因
荷待ち時間が発生する原因には、主に以下の4つが挙げられます。
- 荷主都合による発着の遅れ
- オペレーションの問題
- 手荷役の存在
- 物流施設のリソース不足
上記の荷待ち時間の原因について、以下で詳しく解説します。
①荷主都合による発着の遅れ
荷主都合による発着の遅れとは、ドライバーは指定時間に到着しているのにも関わらず、何らかの事情で荷主側に遅延が発生している状態が該当します。
より詳細な原因としては、以下のケースがあります。
積み込み・積み下ろし準備の遅れ | 倉庫内の検品作業が完了していない |
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スケジュール管理の不備 | 到着時間等が正確に管理されていない |
作業人員の不足 | 倉庫スタッフや荷役担当者が不足 |
②オペレーションの問題
物流施設でのオペレーションがうまくいっておらず、トラックの到着までに荷物が用意できていない場合には荷待ち時間が発生します。
ドライバーは順番待ちのような待機時間を強いられることとなります。より詳細な原因は、以下のとおりです。
非効率な検品作業 | 荷物の数量確認や状態検査が手作業で行っている |
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荷物の準備不足 | 到着時間等が正確に管理されていない |
人的ミス | 情報の共有漏れ等のイレギュラーな事象 |
③手荷役の存在
輸送荷物を手作業で積み下ろす場合、どうしても時間がかかる傾向があります。
現代では機械化が進んでいる一方で、バラ積み・バラ下ろしを行う現場も依然として多いため、倉庫側のさらなる効率化が求められています。
④物流施設のリソース不足
近年、急速に拡大する物流需要に対応しきれず、物流施設でリソース不足が生じるケースがあります。オペレーションの問題等の根幹には施設のリソースが不足している場合も考えられます。
特に繁忙期にはこうした問題が顕著になるため、倉庫側では事前に十分な対策を整えておくことが求められます。
(2)物流の2024年問題の概要
2024年の働き方改革関連法改正により、自動車運転業務における時間外労働時間が年960時間に制限され、限られた時間で効率的に業務を遂行することが求められます。物流の2024年問題による影響は、以下のとおりです。
- ドライバーの労働時間に上限規制が設けられる
- 運送業の売上・利益が減少
- 輸送コストの高騰
- ドライバー不足に陥る可能性
- 業界全体で輸送能力が不足
- 悪質な違反により罰則が科される
物流の2024年問題は、運送事業者と荷主企業、そして元請企業、一般消費者にまで幅広い範囲に影響を及ぼします。従来の労働時間の確保ができないことで、業界全体での輸送力低下や運送事業者の利益減少、ひいてはドライバーの給与が減少するといった影響があるためです。
これまでは事実上はトラックドライバーが時間外労働を行うことで、輸送力の維持を目指すことができましたが、上限規制の強化により足りないリソースを残業で補うことが不可能となりました。
さらに、悪質な上限規制の超過があればペナルティが課される可能性もあるため、物流業者の法改正に対する適応が強く求められています。
(3)荷待ち時間と物流の2024年問題の関係性
少子高齢化等をはじめとする労働人口の問題などから人材不足を早期に解決することは難しい以上、キーポイントとなるのが荷待ち時間の短縮です。
荷待ち時間として発生している1時間〜2時間の待機時間を解消できれば、ドライバーの円滑な輸送を実現し、人材不足に伴う機会損失の発生や、輸送能力の低下を軽減することが可能となります。
将来的にはより多くの課題解決がパフォーマンスの改善には必要であるものの、荷待ち時間の改善は短期間で成果をあげる上で重要な取り組みとなるでしょう。
3.荷待ち時間の改善を目指す方法
荷待ち時間を改善するための対策としては、複数のアプローチが考えられます。主な方法としては、以下の4つです。
ここからは、荷待ち時間の改善を目指す方法を解説します。
(1)システムの導入
システムの導入は、荷待ち時間の改善に効果が期待できます。
たとえば、出荷情報の事前提供を可能にするプラットフォームの確立や、物流コストの可視化によりプライシングを細分化し、荷待ち時間のデータを荷主と共有し価格交渉するといった攻守一体の施策も可能となるでしょう。
(2)荷役作業の効率化
荷役作業を効率化し、早く積み下ろしが行えるよう整備することも、荷待ち時間の短縮において有効です。
手作業でのバラ積みから脱却し、パレットや台車を使った積み下ろし、折りたたみコンテナの有効活用などにより、荷役作業の効率化を進められます。
(3)共同配送
共同配送とは、複数の荷主から預かった荷物を同じエリアや輸送ルートにまとめて配送し、輸送効率を高める方法です。
従来はで荷主ごとに個別の配送ルートやトラックを利用することが多いとされていましたが、年間時間外労働時間の上限規制によりドライバーが対応できる時間が限られることから、複数企業の協業で共同配送を行うケースが増えてきています。
共同配送プラットフォームを確立し、効率よく荷物を運べることで、輸送効率の向上を目指すことが可能です。
(4)発送量の平準化
特定の曜日や時間帯に偏りないよう発注量を平準化することも、荷待ち時間の解消において重要です。
特定タイミングに需要が偏ってしまうと、荷待ち時間が過剰に発生する原因となり、輸送効率が低下します。
発送の量やタイミングを平準化により、閑散期と繁忙期のギャップを小さくして、トラックドライバーの負担が偏るリスクを減らすことができます。
4.荷待ち時間の改善に活用できる主な助成金
荷待ち時間の改善においては、いくつかの助成金を用いることでシステムの導入などを円滑に進めることができます。ここでは、荷待ち時間の改善に活用できる主な助成金を支給対象等も踏まえて解説します。
(1)働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、システムやソフト等の導入に実績のある助成金です。
生産性を向上させ、時間外労働の削減、年次有給休暇や特別休暇の取得活性化に向けた環境整備を進める中小企業を支援しています。
対象 | 以下の条件を満たしている中小企業事業主労働者災害補償保険の適用事業主であること。交付申請時点で、年次有給休暇の計画的付与の規定の新規導入などの「成果目標」設定に向けた条件を満たしていること。全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。 |
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概要 | 時間外労働の上限規制に伴う助成金 |
詳細 | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html |
参考:https://jsite.mhlw.go.jp/ishikawa-roudoukyoku/content/contents/001123522.pdf
(2)業務改善助成金
業務改善助成金とは事業場内最低賃金を30円以上引き上げ、生産性向上に寄与する設備投資等を行った際に、設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。
対象・条件 | 中小企業・小規模事業者であること事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと |
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概要 | 賃金引き上げと生産性向上を両立させるための制度 |
詳細 | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html |
(3)人材確保等支援助成金
人材確保等支援助成金ではコースの内容ごとの助成金が受けられ、制度設計や設備改善などの幅広い施策に適用できます。
対象 | 人事評価制度の設定や離職率目標の設定など。※各種助成金コースによって異なる |
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概要 | 労働環境の改善により、人材確保の活性化や人材の定着を促すための助成金 |
詳細 | https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07843.html |
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07843.html
(4)人材開発支援助成金
スキルアップに必要な研修・訓練経費を助成金で支援してもらうことができます。複数の支援コースが用意されているため、課題にあわせて選ぶことも可能です。
対象 | 支援コースごとに要件が異なるため要確認。 |
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概要 | 人材育成やスキルアップに用いることができる助成金。 |
詳細 | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html |
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
5.荷待ち時間の改善を図った事例
荷待ち時間の改善には、原因にあわせたアプローチが必要です。
ここでは、荷待ち時間の改善を図った主な事例を紹介します。
(1)スワップボディコンテナ車両の導入で荷役分離を実現
岡山県の鶴信運輸では、荷役分離が可能となるスワップボディコンテナを導入することで、荷待ち時間が配送作業に与える時間を抑えています。
スワップボディコンテナの着脱は20分程度で完了できるため、優れた効率化が期待できます。
(2)情報提供で荷主との良好な関係を構築
千葉県の菱木運送では、システム導入によって運行時間を見える化することにより、荷主企業との関係性強化を進めています。
休憩時間や稼働時間を細かく見える化することで、ドライバーの運転時間管理の意識を高めるとともに、荷主側のタイムスケジュールの効率化に貢献し、迅速な積み下ろしを実現しているということです。
(3)業務時間の把握から長時間労働の原因を特定
埼玉県の新雪運輸は、システム導入により運行情報を可視化して長時間労働の原因解明と解消に努めています。ドライブレコーダー機能とタコグラフ機能が一体化したシステムにより、質の高い原因分析が可能となっているのが特徴です。
荷待ち時間にどれくらいの時間がかかっているのかを正確に特定することで、荷主への説得力のある協力を促し、時間短縮に繋がっています。
6.まとめ
この記事では、荷待ち時間の改善方法について、解説しました。
荷待ち時間の改善は荷主側とのコミュニケーションや、ドライバーの働く環境の改善によって進めることが可能です。