近年の物流業界は、ECサイトの利用者数が急増したこともあり、運送事業者や倉庫事業者にかなりの負担がかかっています。また、従業員の高齢化や若年層の就業率が低迷している影響もあり、人手不足が深刻化しています。
本記事では、物流のデジタル化と物流DXとの違いや課題、デジタル化・DXでできることなどについて解説します。
1.物流のDXとデジタル化とは
物流業界では、人手不足や2024年問題などの課題解決に向け、DX(デジタルトランスフォーメーション)やデジタル化の導入を促進しています。
ここでは、物流のDXとデジタル化の概要を紹介します。
(1)物流DXとは
物流DXについて、国土交通省は以下のように定義しています。
「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」であり、物流DXにより、他産業に対する物流の優位性を高めるとともに、日本国内における産業の国際競争の強化につなげることです。
具体的には、以下の内容が取り組みの中心です。
- 既存のオペレーション改善や働き方改革の実現
- 物流システムの規格化などを通じた、物流産業のビジネスモデルそのものの革新
参考元:国土交通省
物流業界におけるDXの具体例として、以下のような取り組みが挙げられます。
物流業界におけるDXの具体例 | 期待される効果 |
---|---|
AIを活用した配送ルートの最適化 | 配送時間の短縮、燃料費削減、配送遅延の防止 |
IoTセンサーによる在庫追跡・管理 | 在庫の過不足解消、保管コスト削減、在庫回転率向上 |
AIによる需要データの分析・予測 | 過剰・欠品の防止、計画的な配送と在庫確保の実現 |
ロボットや自動搬送機(AGV)の導入 | 作業負担の軽減、人手不足の解消、作業ミスの低減 |
チャットボットや追跡システムの導入 | 顧客満足度向上、対応コスト削減、正確な情報提供 |
CO₂排出削減のためのエコ配送の推進 | 環境への配慮、持続可能な物流モデルの構築、ブランド価値の向上 |
業務のデジタル化による事務作業負担の軽減 | 働きやすい環境の実現、人材定着率の向上、労働力不足の解消 |
DXとは、単なる業務のデジタル化にとどまらず、デジタル技術を活用して業務プロセスやビジネスモデルを根本から変革し、新たな付加価値を創出する取り組みを指します。
(2)物流のデジタル化とは
物流のデジタル化とは、従来の手作業やアナログな業務をデジタルツールやシステムに置き換えることを指します。
例えば、以下のような取り組みが該当します。
- 配車計画の属人的な業務を専用システムで効率化する
- 手作業で行っていた請求書発行をパソコンでシステム化する
- ドライバーの日報を専用端末や管理システムに移行する
物流のデジタル化は、物流DXのような大掛かりな取り組みではなく、部署単位や業務工程別で進められることが特徴です。
規模は小さくても、デジタル化により作業効率が向上し、経験の浅い従業員でも熟練者と同じレベルで業務を遂行できるといったメリットがあります。
2.物流業界の課題とDXが求められる背景
物流業界では、人材不足や消費者ニーズの変化などからDXが求められています。
ここでは、既存のデータをもとに物流業界の課題とDXが求められる背景を解説します。
(1)人材不足の深刻化
国土交通省の調査によると、令和5年3月時点で貨物運送業の有効求人倍率は、全職業平均の約2倍に達しています。これは、業界全体の人手不足が特に深刻であることを示しています。
貨物運送業の年齢構成では、40〜54歳が44.3%を占める一方で、25歳以下がわずか10%、65歳以上が10%となっており、中年層の割合が高いことが特徴です。若年層の割合が低いことは、将来的な人材確保の課題を浮き彫りにしています。
今後、10〜20年のうちに、全体の約半数以上が定年退職する見込みであり、25歳以下の就職率が向上しなければ、人手不足はさらに深刻化する見込みです。
(2)消費者ニーズの変化
国土交通省の調査によると、宅配便の取扱個数は、平成4年度の11億8,900万個から令和3年度には49億5,300万個へと急増し、約4倍以上に膨れ上がっています。この約30年間で、宅配ドライバーに過剰な業務負荷がかかる状況が生じています。
宅配便の増加要因としては、インターネットの普及によるECサイトの増加や、企業の販売形態が店頭販売から通信販売へシフトしたことが挙げられます。
また、経済産業省が発表したEC市場規模の経年推移を見ると、拡大傾向が続いており、今後も宅配便の需要はさらに増加することが予測されます。
(3)環境問題への対応
公益社団法人全日本トラック協会のデータによると、CO₂排出原単位指数は、2005年度を基準年として、2005年度から2010年度まで減少傾向にありました。
その後、一時的に増加したものの、2012年度以降は横ばいで推移し、2022年度時点では基準年と同じレベルに戻っています。
また、一般社団法人経済団体連合会(経団連)は、カーボンニュートラル行動計画の中で、トラック運送業界の目標として、2030年までにCO₂排出原単位を2000年度比で31%削減することを公表しています。
この目標を達成するためには、宅配業者だけでなく運送事業者を含む物流業界全体で、CO₂排出量削減に積極的に取り組む必要があります。
運送事業者としても、カーボンニュートラルを目指した技術の導入や環境配慮型の取り組みを推進することが、これからの事業運営において重要となるでしょう。
(4)IT化の遅れ
国土交通省が行ったデジタル化率の調査データによると、運送事業者は、管理業務で40%、輸送業務に関しては、2〜18%にとどまっており、ほとんど進んでいない現状が明らかになっています。
倉庫事業者では、入庫管理や出荷・管理業務のデジタル化が59〜68%と進んでいる一方、入荷業務(入庫作業)では9〜28%にとどまり、課題が残っています。
運送事業者と比較すると、倉庫事業者の方が、特に帳簿や管理書類のデジタル化では取り組みやすい傾向があります。これは、書類や帳簿管理がデジタル化しやすい業務であることや、データ移行が比較的容易であることが背景に挙げられます。
また、運送事業者における特殊作業や状況に応じた判断を必要とする業務は、データ管理が難しいため、デジタル化が進みにくい要因となっています。
このような課題を克服するには、ITツールの導入を進めるとともに、アナログ作業を補完できる柔軟なデジタルソリューションを活用することが求められます。
(5)物流の2024年問題への対応
物流業界では、働き方改革関連法の適用により、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働が年間960時間に制限されます。
この規制は、労働環境の整備を目的としていますが、輸送力の低下や人材不足の深刻化を懸念する声も多く、2024年問題として物流業界の大きな課題となっています。
公益社団法人全日本トラック協会の調査によると、2023年10月時点で、時間外労働が年間960時間を超えるドライバーは全体の25.9%にのぼります。
前年同月と比べて約3%減少しているものの、依然として約4人に1人のドライバーが長時間労働に従事している状況です。
ドライバーの負担軽減と持続可能な物流システムの構築が、業界全体の喫緊の課題となっています。
3.物流のデジタル化とDXで期待できる効果
物流のデジタル化とDXは、業務効率化やコスト削減、作業負担の軽減に大きく寄与します。ここでは、物流のデジタル化とDXでできることを解説します。
(1)デジタル化によるペーパーレス
物流業務で扱う書類や帳簿をデジタル化することで、ペーパーレス化が実現します。これにより、書類管理の効率化、保管スペースの削減、コスト低減が可能です。
ペーパーレスの具体的な方法として、専用システムの導入やエクセルの使用が挙げられます。
具体的な方法 | 期待できる効果 |
---|---|
専用システム | 帳簿、伝票の一元管理で書類管理を簡素化 |
エクセル | パソコンで簡易的に請求書や伝票を作成・管理 |
ただし、エクセルを使って複雑なシステムを構築する場合には、高度なプログラミングスキルが必要となる場合があります。
この場合、専門業者やエクセルに精通したプロフェッショナルに依頼することで、効率的にシステムを構築し、トラブルを未然に防ぐことが可能です。
物流のデジタル化によるペーパーレス化は、事務作業の効率化だけでなく、保管スペースやコストの削減にもつながります。専用システムとエクセルを適切に活用し、業務のデジタル化を進めることで、物流業務全体の生産性向上が期待されます。
(2)DXによる業務効率化
物流DXの導入は、業務効率化や自動化を通じて、人的ミスの削減や作業プロセス全体の最適化を実現します。
さらに、従業員が付加価値の高い業務に集中できる環境を整え、コスト削減や顧客満足度向上にも寄与します。
具体的な方法とそれぞれで期待できる効果は、以下のとおりです。
具体的な方法 | 期待できる効果 |
---|---|
電子端末の導入 | 入力や発行ミスを早期発見し、正確なピッキングを実現 |
ICタグの活用 | 商品や数量の間違いを回避し、在庫管理の精度が向上 |
AIを活用した分析 | 最適な配送ルートを提案し、効率的な配送を実現 |
ロボット連携システム | ピッキングや搬送作業を自動化し、作業負担を軽減 |
業務統合システムの導入 | 在庫管理、伝票発行、ピッキングデータなどを一元管理 |
例えば、商品棚にICタグを取付ければ、在庫管理の簡素化を図れるので、ピッキングや棚卸の時間短縮や人件費のコスト削減につながります。
その他にも、自動ピッキングロボットや簡易的なセンサー機器などで特定作業の効率化または自動化に役立てることも可能です。
システムの導入は単なる作業効率化にとどまらず、従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整えることが可能です。
4.物流のデジタル化・物流DXの導入事例
ここでは、物流のデジタル化・物流DXの導入事例を紹介します。
(1)システム導入による輸送効率化とデジタル化の推進
ワーレックス社は全国20以上の配送拠点間での非効率な運用や帰り便の未活用、労務時間管理の手作業といった課題を抱えていました。
物流基幹システムの導入後、全拠点の配車が見える化され、2021年5月から2022年12月に運行管理者の業務時間が1日あたり158.3時間から108.1時間へ約31.7%削減されました。
輸送実績や労務データを活用し、荷主との交渉がスムーズになり契約見直しも効率化が促進されました。
(2)配送案件管理システムによる管理工数削減
配送案件管理システムは、社内や取引先との間で、運送契約のデジタル化や発注車両の管理、請求・支払い業務をオンラインで効率的に行うことが可能です。
主な機能には、運送契約や条件のデジタル化、運送条件の実運送業者への情報共有、待ち時間や荷役作業時間の計測・管理が含まれます。また、これらのデータを活用して、請求・支払い業務をオンライン化することが可能です。
さらに、配車事務処理工数の削減(3日/月、3名/月の削減実績)や発注書のペーパーレス化といった業務効率化の効果も実現しています。
(3)輸送管理システム(TMS)による作業工数の削減
輸送管理システムを導入した企業では、売上が20%増加し、配車や請求業務における事務作業工数を50%削減する成果を上げた事例があります。
配車計画で重要視する項目に基づいた配車表の作成や、デジタコによる実運行記録データを活用した運賃請求や労務管理を可能にし、蓄積されたデータを基に、不採算ルートの撤廃や原価管理を行うことで、売上単価の向上に貢献する効果も確認されています。
(4)動態管理システムによる業務の可視化
動態管理システムの導入前は、顧客から到着時間に関する問合せがあっても、ドライバーと連絡が取れず対応が難しい状況が課題となっていました。
導入後は、全国のトラック情報をリアルタイムで把握し、迅速な配車手配やドライバーへのナビ指示が可能になり、移動時間のロスを削減することや顧客の希望時間に正確に対応できるようになり、顧客満足度も向上しています。
従業員はシステムの利便性を業務を通じて実感し、自発的に活用するようになりました。今後も新技術を積極的に導入し、業務の効率化と顧客満足度のさらなる向上を目指しています。
(5)車両ナンバー認証システムによる入退場待ち時間の削減
車両ナンバー認証システムを活用することで、入退館管理の省力化や敷地内での入退場待ち時間を削減するだけでなく、バース予約システムと連携することでバース受付業務の効率化ができます。
また、滞留時間超過のアラート機能があれば、物流ガイドラインが定める荷待ち・荷役時間の2時間以内ルールへの対応も可能です。
車両ナンバー認証システムとバース予約システムの導入企業では、1施設あたり1日最大2時間の入場待ち時間削減に成功した事例もあり、車両ナンバー認証システムは物流業務の効率化とドライバー負担の軽減に役立っています。
(6)携帯電話と連動したバース予約・受付システム
物流が集中すると、倉庫周辺でトラックが長時間待機し、近隣への迷惑や効率低下を招くことが課題となっていた企業では、2019年1月に自社開発の携帯電話と連動したバース予約・受付システムを導入しました。
導入後、倉庫周辺での待機トラック削減や貨物エリアの秩序ある運用が実現し、待機時間の短縮により渋滞緩和や環境保全にも寄与しました。この取り組みは、2020年に九州運輸局交通政策関係表彰の環境保全部門で評価され、今後も物流情報プラットフォームの統合を進め、さらなる効率化を目指しています。
(7)シェアリング型倉庫サービスによる物流効率の向上
従来、倉庫利用者は保管スペースを利用しなくても固定費が発生し、コスト削減や委託倉庫の価格評価が課題となっていました。
一方で、倉庫提供者側では空きスペースや遊休スペースの収益化が大きな課題でした。このような背景を受け、シェアリング型倉庫サービスが導入されました。
実際に導入した支店では、空きスペースの発生が多かったスルー型倉庫を効率的に運用し、荷主が料金や条件を確認して契約する仕組みにより、業務の効率化と収益の向上を実現しました。
保管スペース不足時のバックヤードや急な需要増加時のバッファ倉庫として活用できる一方、提供者側では空きスペースを効率的に収益化することが可能になります。
(8)自動フォークリフト(AGF)による業務効率化
物流センターや倉庫での作業員不足や働き方改革への対応を目的に、自動フォークリフト(AGF)4台とオートレーター2基を連携させた自動化システムが導入された事例では、夜間の出荷準備作業を完全自動化するとともに、日中の入・出庫作業の繁忙時間帯における補助作業にも活用されています。
導入されたAGFは、既存施設の大幅な改修が不要で、パレット運用に適した設計が特徴です。
夜間には各階に配置されたAGFがパレット積みされた出荷予定貨物を1階の出荷待機場所へ自動搬送し、深夜9時間で約270パレットの搬送を実現しました。
この自動化により、残業時間が1~2時間/人/日削減され、年間で約3000時間、人件費に換算して1000万円以上のコスト削減が達成されました。
(9)RFIDと仕分けシステムによる倉庫作業の効率化
無線通信自動認識システム(RFID)の導入により、検品と仕分け作業の効率化を実現しました。
RFIDは無線ICチップを活用した自動認識技術で、入出荷時の検品作業を効率化します。
従来の手作業による検品を、RFIDゲートを通過させるだけで瞬時に完了する仕組みに改良しています。
無線通信自動認識システム(RFID)を導入した企業における一例では、新規就労者の作業スキル修得時間を約7割削減するとともに、仕分けミスはほぼゼロを達成しました。
作業品質の向上に加え、トラブル時の現場対応もスムーズに行えるため、作業の中断を最小限に抑えています。
(10)複数荷主対応型倉庫の自動化制御システム(RSC)による物流効率化
自社開発の複数荷主のシェアリングに対応した倉庫の自動化制御システム(RSC)を導入した企業の一例では、物流センターの自動化率72%を達成しています。
物流センターでは多くの作業を人手に依存しており、個別に稼働する機器の管理が課題でした。
しかし、RSCはセンター内の機器を連携稼働させることで、作業効率と物流品質を大幅に向上させています。省人化と自動化を実現し、倉庫全体の効率を高めました。
作業員の移動距離を短縮する仕組みを導入し、広い倉庫内を歩き回る必要がなくなり、誤出荷や納品書の誤投入といった作業ミスが減少し、物流センター全体の作業効率が向上しました。
5.まとめ
今回は、物流のデジタル化と物流DXの違いやデジタル化でできること、各企業が取り組んでいるサービスや事例について解説しました。
物流業界では、人手不足や消費者のニーズの変化、環境問題への対応など、さまざまな課題を抱えています。課題解決には、デジタル化やDXに取り組むことが不可欠であり、多種多様なサービスや機器も増加しています。