運送業がIT化するメリットとは？課題、導入ポイント、活用方法等

世界的に進むデジタル化の波は物流業界にも押し寄せており、業務の効率化や人手不足の解消など、さまざまな課題解決の手段として注目されています。

本記事では、運送業でIT化を導入するメリット、導入ポイントについて解説します。

1．運送・物流業にIT化が求められている背景

運送・物流業では、人手不足や2024年問題を背景にIT化の必要性が高まっています。
以下の記事では2024年問題についてわかりやすく解説しています。

（1）人手不足

物流業界では人材の確保が年々難しくなっており、深刻な労働力不足に直面しています。
国土交通省によれば、トラックドライバーの数は減少傾向にあり、2015年からの15年間で24.8万人減少すると予測されています。

また、物流業界における年齢構成の偏りも懸念されています。
道路貨物運送業の人員構成を見ると、40代から50代半ばの中高年労働者の比率が全産業平均を大幅に上回る一方、若手人材の割合は著しく低い状況です。（参照：厚生労働省 統計からみるトラック運転者の仕事）

このような現状は近い将来、中核を担うベテラン従業員の大量退職により、さらに深刻な人手不足を招く恐れがあります。

（2）2024年問題

物流業界では2024年4月から施行された「働き方改革関連法」による大きな変革に直面しています。
いわゆる「2024年問題」と呼ばれる法改正により、トラックドライバーの時間外労働時間が、年間960時間に上限規制されました。

法改正にはドライバーの労働環境改善という目的がある一方で、国内の輸送力が低下し、モノが運べなくなることが懸念も広がっています。以下の報道動画では、2024年問題の具体的な影響を一次情報をベースにわかりやすくご確認いただけます。

このような課題は単なる個別企業の問題ではなく、日本における物流システム全体の機能低下につながりかねない重大な問題です。

限られた労働時間内で効率的な物流を維持するため、業界は技術導入や業務プロセスの抜本的見直しなど、早急な対応策の実施を迫られています。

（3）小口配送増加による積載量の減少

EC市場の発展に伴い、物流現場では「小口多頻度化」が急速に進行しています。
経済産業省の「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書」によると、物販・サービス・デジタルをあわせたECの市場規模は2023年で24.8兆円に達し、前年比で2.9兆円の成長を記録しました。

しかし、小口多頻度化により、少量の荷物を高い頻度で配送するという形態が一般化しており、その結果としてトラックの積載効率の低下が深刻な問題となっているのです。

一回の配送で運ぶ荷物量が減少することで、トラックの積載スペースが十分に活用されず、物流リソースの非効率な使用につながっています。
この積載効率の低下は単なる運送コストの上昇だけでなく、配送能力全体の低下を招き、増加し続ける配送需要に対応できなくなるリスクも高まるでしょう。

2．運送・物流業にITを導入するメリット

ここでは、運送・物流業にITを導入する具体的なメリットを紹介します。

（1）人材不足の解消

テクノロジーを駆使した自動化システムの導入は、深刻化するドライバー不足や高齢化問題に対して、効果的な対応策となるでしょう。

たとえば、倉庫内作業では自立走行可能なロボットの導入により、重量物の運搬といった身体的負担の大きい作業を機械に代替させることが可能です。

また、AIを活用した配車システムは、限られたドライバーリソースを最大限に活用する手段として注目されています。
最適な配送計画を自動生成することで、ドライバーが効率的に配送できる仕組みを構築するため、人員不足でも安定した物流サービスの維持が可能になるでしょう。

このようなIT技術の戦略的導入により、少ない人員でも高い生産性を維持できます。

（2）業務の属人化を解消

物流現場では長年、ベテランの経験と直感に依存した業務運営が一般的でした。
属人的な運営体制は、個人の技能レベルによってサービス品質にばらつきが生じやすいため、業務の標準化や生産性向上に対する大きな壁となっていました。

IT技術の導入は、このような属人化の課題を効果的に解決します。

たとえば、作業手順をシステム化することで、各工程の進捗状況が可視化され、作業の抜け漏れやミスが大幅に減少するでしょう。

さらに、業務知識がシステムに集約されることで、特定の担当者が不在の場合でも、他スタッフが代替して対応できる柔軟な体制が構築できます。
IT化は個人の技能や経験に依存しない、安定した品質と効率性を兼ね備えた物流業務の実現に不可欠な要素といえます。

（3）品質の向上

人間の判断や作業に依存していた業務プロセスをIT化することで、作業の正確性が飛躍的に高まり、ヒューマンエラーによる誤配送や商品破損などのリスクを低減できるでしょう。

たとえば、温度管理が必須となる生鮮食品や医薬品の物流では、IoTセンサーによるリアルタイム温度監視システムの活用が効果的です。

輸送中や保管時の温度変化を継続的に記録・分析することで、品質劣化の原因特定や最適な保管条件の確立が可能になります。

さらに、衣服の物流では、ITシステムに蓄積された過去の販売データから需要変動を予測することで、適切なタイミングで最適量の在庫を確保できます。

（4）配送の最適化

配送管理システムの導入により、今までドライバーなどの経験や勘に頼っていた配送計画を、より効率的な計画に進化させることが可能です。

現代の配送管理システムは、リアルタイムの交通情報・気象条件・車両の稼働状況など、複数の条件を同時に分析することで、最も効率的な配送ルートを自動算出します。その結果、走行距離の短縮や燃料消費の削減、配送時間の最適化など、物流コストの大幅な削減につながっています。

また、GPSと連動した動態管理システムを導入すれば、配送状況をリアルタイムで把握できるため、予期せぬ道路状況の変化や緊急配送依頼にも柔軟に対応できるでしょう。顧客に対しても正確な到着予定時刻を提供できるため、サービス品質の向上にもつながります。

ITによって配送を最適化することで、コスト削減と顧客満足度向上を同時に達成できる可能性が高まります。

（5）付加価値の創造

デジタル化によって蓄積される膨大なデータは、顧客行動や市場動向を深く理解するための貴重な資源となり、革新的なサービス開発の基盤となるでしょう。

EC市場が急速に拡大したことで、ユーザーのニーズも多様化してきました。
企業がそのニーズを汲み取ったサービスを新たに開発することで、より競争力の高い企業へと進化できるでしょう。

データ活用による付加価値サービスは、価格競争に陥りがちな物流業界において、独自のポジショニングを確立できる差別化要因となります。

（6）コストの削減

物流業界にITを導入することで、各種コストの大幅な削減が可能になります。

まず、自動化システムや効率的な業務フローの構築により、必要な人員数を最適化できるため、人件費の削減が可能です。そのほかにも、AI技術を活用して配送ルートを最適化することで、走行距離の短縮による燃料費の削減につながります。

さらに、システム導入によるペーパーレス化は用紙代の削減にとどまらず、保管スペースの縮小や請求書発行・郵送費の削減など、さまざまなコストカットにつながるでしょう。

このようなコスト削減効果が組み合わさることで、IT投資以上のリターンを生み出し、企業の持続的な収益性向上に貢献します。

3．運送・物流業にITを導入する際のポイント

運送・物流業でITを導入する際は、以下のポイントを意識するようにしましょう。

• 導入の目的を明確にする
• 目的に応じて段階的な導入も検討する

（1）導入の目的を明確にする

物流業界へのIT導入を成功させるポイントは明確な目的設定です。
多くの企業がIT投資において失敗する主な理由は、導入目的の曖昧さにあります。

「業界のトレンドだから」「競合他社が導入しているから」といった理由で意思決定すると、自社にあわない過剰な投資や、逆に必要な領域への投資が手つかずになる恐れもあります。

効果的なIT導入のためには、まず自社の業務プロセスを客観的に分析し、ボトルネックや非効率な工程を特定することから始めましょう。

課題分析をもとに解決すべき優先順位を決めて、それぞれの課題に対応するIT解決策を検討することで、投資対効果の高いシステム導入につながります。

（2）目的に応じて段階的な導入も検討する

運送・物流業におけるIT化は、計画的かつ段階的なアプローチが成功の鍵となります。

まずは投資対効果が高く、比較的短期間で成果が見込める業務領域を特定して、そこからIT化を開始するとよいでしょう。
また、取引先や協力会社との連携が必要な領域では、相手側のIT対応状況も考慮しながら順次拡大していくことで、スムーズな移行が可能になります。

4．運送・物流業の課題を解決するIT化の事例

（1）ドローンを使った配送

近年、物流業界における革新的なIT活用事例として、ドローンによる配送サービスが注目を集めています。
世界最大のECプラットフォームであるAmazonは、2022年にドローン配送サービス「Prime Air」を開始しました。

Prime Airでは約2.3kgまでの小型貨物であれば、倉庫から消費者宅へ直接配送することが可能です。
日本でも日本郵便をはじめとする物流大手がドローン配送の実験を進めています。

ドローン配送のメリットは、地上の交通状況に左右されない点です。
渋滞や道路状況に関係なく最短距離で目的地に到達できるため、配送時間の大幅短縮につながるでしょう。
一方で航空法規制や飛行安全性の確保、プライバシー問題、騒音対策など、解決すべき課題も多く存在します。

しかし、技術進化と法整備が進めば、運送業の課題解決に大きく貢献するでしょう。

（2）配送管理システム

配送管理システムは、物流センターから顧客までの配送プロセス全体を一元管理する統合プラットフォームです。
同システムでは、荷物の量や配送先・納期といった情報をもとに、AIが保有車両の状況や道路状況・天候条件なども考慮しながら、最も効率的な配車計画を自動的に算出します。

配送管理システムを活用することで、配送の遅延リスクを低減しながら、走行距離の最小化による燃料コスト削減やドライバーの労働時間適正化といった効果が得られます。

（3）倉庫管理システム

倉庫管理システムは入荷から保管・ピッキング・出荷に至るまで、倉庫内の全業務プロセスを統合的に管理するシステムです。
同システムを導入することで、商品の位置情報や数量・ロット情報などをリアルタイムに確認できるため、人為的なミスを防ぐことが可能です。

誤出荷や在庫不一致といった重大なトラブルを未然に防止することで、サービス品質が確保されるため、企業の信頼性も高まるでしょう。

（4）荷物を運搬するロボット

物流現場では、自律移動ロボット（AMR）の導入が徐々に広がっています。
AMRの特徴は、あらかじめ決められた経路だけでなく、状況に応じて自ら最適な経路を判断できる柔軟性にあります。

ロボットに搭載されているセンサーやカメラで、倉庫内の人や障害物を瞬時に検知することで、自動的に回避行動をとることが可能です。
24時間365日稼働できるAMRを導入することで、スタッフが単純反復作業から解放されるため、より創造的で付加価値の高い業務へ注力できます。

5．まとめ

物流業界は現在、人手不足の深刻化やEC市場の拡大による配送需要の増加など、さまざまな課題に直面しています。このような課題を解決するためには、IT技術を活用した業務の効率化や自動化が不可欠です。

ITを導入する際は目的を明確にして、現場スタッフの理解と協力を得ながら、段階的に導入することをおすすめします。ITの力で新たな付加価値の創造や、持続可能な物流体制の構築を目指しましょう。