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2024年5月に公布された改正貨物自動車運送事業法により、2025年4月1日から実運送体制管理簿の作成が新たに義務化されます。
本記事では、実運送体制管理簿について、対象となる事業者、記載すべき項目、作成方法、そして義務化に至った背景などを詳しく解説します。
実運送体制管理簿とは、荷主から運送業務を依頼された元請事業者が、実際に貨物を運搬する実運送事業者の名称、運送区間、請負階層(下請けの段階)などの情報を記録・管理する帳簿のことです。
この帳簿の作成は、2024年5月に公布された改正貨物自動車運送事業法によって、2025年4月1日から義務付けられました。
ただし、作成義務は荷主から引き受ける貨物が1.5トン以上の場合に限定され、自社で全ての貨物を実運送する場合は作成不要です。ここでは、記載が必須となる情報と、この制度が導入された背景について解説します。
実運送体制管理簿に記載が義務付けられる項目は、以下の通りです。
実運送事業者名 | 実際に貨物の運送を担当する運送事業者の会社名 |
---|---|
運送区間 | 貨物の出発地(積込地)と到着地(納品先) |
請負階層(請負次数) | 元請事業者を基準に、実運送事業者が何次の下請けに該当するかを示す (例:一次請け、二次請けなど) |
貨物の内容 | 運送する貨物の種類や品名などを具体的に記載 |
これらの情報を正確に記録・管理することで、運送業務の透明性や適正な取引の確保につながります。
なお、記載の形式について特定の様式は定められておらず、自社で利用している配車表を活用することも可能です。また、紙だけでなく電子データでの作成・保存も認められています。
実運送体制管理簿の作成義務化には、日本の物流業界が抱える構造的な問題が背景にあります。主な背景としては、以下の点が挙げられます。
日本の物流業界では、荷主から運送業務を依頼された元請事業者が、一次請け、二次請け、さらにはそれ以下の事業者へと再委託する多重下請け構造が広く見られます。
この多重下請け構造を可視化できる実運送体制管理簿を導入することで、物流取引の透明性を高め、適正運賃へと導く効果が期待されています。
多重下請け構造の下では、末端の実運送事業者が受け取る運賃が不当に低く抑えられているケースもあります。
運賃を低価格で受領しない場合に、業務が打ち切られるリスクもあるため、立場の弱い運送事業者は強く意見を言えない状況に置かれ、その関係性が不当に利用されることがあります。
実運送体制管理簿を活用し、委託関係を明確にすることで、実際に運送を行う事業者が適切な運賃を受け取れる環境を整備することが重要です。
2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働時間の上限規制が強化されました。
これにより、ドライバーの収入減少や大量離職が懸念されており、労働環境の改善や限られたリソースの有効活用が喫緊の課題となっています。
現状では、元請事業者でさえ下請けのさらに下層の繋がりを正確に把握できていない事例が多く、複雑に入り組んだ下請構造の全体像を誰もが把握できているとは言えないのが実情です。多重下請け構造の是正を通じてドライバーの賃上げにつなげることは、労働環境の改善にもつながります。
現状では、元請事業者であっても、一次請け以降の下層にあたる事業者同士のつながりを正確に把握できていないケースが少なくありません。
さらに、運送委託を専門に仲介する事業者が介在することで、委託の流れがより複雑化しています。実運送体制管理簿は、こうした入り組んだ委託構造を一つひとつ記録・整理することで、不透明だった取引の全体像を可視化し、その実態把握を可能にします。
多重下請け構造の可視化 | 荷主から最終的な運送担当者までの委託の流れを記録・可視化 |
---|---|
実運送事業者の把握 | 貨物を輸送する事業者を特定・管理し、責任の所在を明らかに |
下請け構造の是正促進 | 物流・建設業界の多層下請け構造を改め、透明で健全な取引を目指す |
法令遵守の徹底 | 元請けが下請け状況を把握・管理し、関連法規の遵守を促進 |
取引の透明性向上 | 運送契約の委託関係を明確化し、取引の透明性を高め、不当運賃や労働条件を改善 |
上記は不明瞭な取引構造の解消、責任の所在の明確化、不適切な運賃設定や労働条件の改善、そして関連法規の遵守を促進するためにも重要です。
実運送体制管理簿は、物流業界における健全な取引と労働環境を実現するために、非常に重要な役割を果たします。
荷主から直接運送委託を受けた元請事業者には、実運送体制管理簿の作成義務があります。対象となる事業者は、主に以下のとおりです。
元請け事業者とは、荷主または一次請け事業者から運送を請け負い、その業務の全部または一部を他の貨物自動車運送事業者へ再委託する事業者を指します。再委託を行うすべての貨物について管理簿を作成します。
原則として管理簿の作成義務はありません。ただし、利用運送の形態で元請事業者に運送を委託する場合は、下請情報の書面通知義務が発生し、かつ実運送事業者からの実運送事業者情報の提供を受ける必要があります。
作成不要な事業者は、以下の場合が該当します。
実運送体制管理簿の作成では、作成単位、形式、書類の様式、保管期間、そして記載すべき事項といった、いくつかの重要な点を把握しておく必要があります。
原則として、荷主から1.5トン超の貨物運送を請け負い、かつ他の運送事業者へ再委託する場合には、運送ごとに実運送体制管理簿を作成する必要があります。ただし、以下のいずれかに該当する場合は、個々の運送ごとに新たな管理簿を作成する必要はありません。
なお、一度作成した管理簿は、保存期間(1年)を過ぎると新たに作成し直す必要があります。
以上を踏まえ、対象となる運送ごとに漏れなく管理簿を作成・保存してください。
実運送体制管理簿の形式には法的な制約がなく、以下のいずれの方法でも作成・保管が可能です。
紙媒体 | 従来の配車表や帳簿と同様に、紙で記録し、ファイルやバインダーで保管 |
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デジタルデータ | スプレッドシートや専用システムなどで電子的に作成・保存 |
特に、運送ごとに複数の管理簿を作成する必要がある場合や、過去の記録を迅速に検索・共有したい場合は、デジタルデータによる運用が効率的です。
作成した実運送体制管理簿は、運送を完了した日から起算して1年間、元請事業者の営業所等で保管しなければなりません。これは帳簿の改ざん・紛失を防ぎ、国土交通省や真荷主からの閲覧請求に速やかに対応できるようにするための措置です。
実運送体制管理簿には、以下の必須項目を漏れなく記載してください。
これらの情報が記録されていれば、運送区間や貨物の内容の表現形式は問われません。
重要なのは、「どの運送」についての記録かを荷主および元請事業者の双方が確実に特定できる状態を維持することです。
2024年5月15日に公布された貨物自動車運送事業法の一部改正(令和6年法律第23号)は、2025年4月1日から施行されました。本改正は、時間外労働の上限規制適用に伴い増大する物流現場の負荷(いわゆる「2024年問題」)に対応し、以下のように安全かつ持続可能な輸送体制の確立することを目的としています。
多重下請構造の可視化 | 実運送体制管理簿の作成義務化 |
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取引の透明化 | 利用運送事業者との書面交付・通知義務の強化 |
適正運賃・働き方の確保 | 書面による運賃・業務内容の明示義務 |
上記が政策パッケージとしてまとめられ、荷送人から運送・倉庫事業者、さらには最終消費者に至るまで、物流関連各社が連携して持続可能な仕組みを支える基盤を再構築しています。
ここでは、貨物自動車運送事業法の概要と2025年における改正内容について解説します。
貨物自動車運送事業法は、トラックなどの自動車を使って対価を得て貨物を輸送する事業を対象に、安全運行と適正な運営を確保するとともに、公正な競争環境を維持するための基本ルールを定めた法律です。
具体的には、運送事業者の許認可基準や運賃・料金の設定方法、運行管理体制の整備義務などを規定し、社会経済の変化や物流ニーズの高度化に対応しながら、持続可能な輸送サービスの提供を支える仕組みとなっています。
2025年4月1日に施行された改正貨物自動車運送事業法の、実運送体制管理簿の作成義務化に加えた主な変更点は以下のとおりです。
荷主と利用運送事業者の間で、提供するサービス内容や対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む)を記載した書面を相互に交付・通知することが義務化されました。これにより、契約条件の不透明化を防ぎます。
トラック事業者および利用運送事業者は、契約締結時に運賃・料金を明確に提示しなければなりません。後から発生する諸費用も含めた総額を事前に示すことで、ドライバーや荷主が受け取る対価の適正化を図ります。
一定規模以上のトラック事業者および利用運送事業者には、運送利用管理規程の作成と、その実行を監督する責任者の選任が義務付けられました。これにより、下請取引の適正化に向けた社内ルール整備が促進されます。
すべてのトラック事業者および利用運送事業者に対し、下請け取引の適正化(不当な低運賃や長時間労働の防止)に取り組む努力義務が課されています。
小規模な軽自動車による運送事業者にも、管理者の選任と講習の受講、事故報告義務など、安全確保に関する規制が拡大されました。軽貨物事業者における安全対策の詳細は、以下の動画でご確認いただけます。
実運送体制管理簿の作成・保存や通知義務を怠った場合、以下のように行政処分(主に事業停止命令や警告)が科される可能性があります。違反の件数や内容に応じて、初回/再違反時の処分が異なるものの、企業としての信頼性が失墜する危険があるため注意すべきです。
ここでは、実運送体制管理簿に関する罰則について解説します。
正当な理由なく実運送体制管理簿を作成しないと、貨物自動車運送事業法に基づき、以下の処分を受けるおそれがあります。
行政指導 | 違反の是正を促す勧告や助言 |
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事業改善命令 | 具体的な改善措置の計画提出・履行を命じる命令 |
事業停止命令 | 一定期間、営業の停止を命じる処分 |
許可取消し | 改善が見込めない場合に事業許可を取り消す最終的な措置 |
以上のように、管理簿未作成は軽微な指導から最悪の場合の許可取消しまで、段階的に厳しい処分対象となります。
実運送体制管理簿の作成義務がない事業者であっても、下請情報や実運送事業者情報の通知義務を怠ると、以下の処分対象となります。
行政指導 | 違反事実の確認後、是正を促すための助言や勧告 |
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事業改善命令 | 必要な通知手順や書面化の方法について、具体的な改善計画の提出・実施 |
事業停止命令 | 告知すべき情報の不通知が重篤または反復する場合、一定期間の営業停止を命じられる |
許可取消し | 改善が著しく遅滞し、重大な違反と判断された場合、最終的に事業許可が取り消される |
これにより、運送委託の透明性維持と公正取引の確保が厳格に求められるため、通知義務は確実に履行することが重要です。
実運送体制管理簿の導入を円滑に進め、その目的を確実に達成するためには、荷送人と元請事業者がそれぞれの立場において適切な対策を講じることが重要となります。ここでは、実運送体制管理簿導入に向けた荷主と元請の取り組みを解説します。
荷主企業は、以下の4つのポイントを把握・実行し、順次対応を進めることが重要です。
委託先の下請構造の把握 | ・自社が運送を依頼する元請事業者から、さらにどの事業者へ再委託されているかを確認 ・各階層の事業者名と請負次数をリスト化し、構造を可視化 など |
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適正な運賃設定 | ・元請と実運送事業者の双方が適切な対価を受け取れる運賃水準を検討 ・運賃見直し時には、労務費・燃料費・維持管理費などを勘案し、公正な基準を定める など |
契約内容の明確化 | ・運送契約書や依頼書に、「下請構造」「管理簿作成の要否」「必要情報の提供期限」を明記 ・書面または電子データで交付し、契約条件や管理体制が後続の事業者にも正確に伝わるようにする |
法令遵守の意識向上 | ・改正貨物自動車運送事業法の要点(管理簿義務・通知義務・保存期間など)を社内で共有 |
以上の措置を講じることで、荷主自身が物流全体の透明性向上と適正取引の実現に貢献できるようになります。
元請事業者は、以下の5つの項目を順次確認・実行し、管理体制を整備しましょう。
実運送体制管理簿の作成と管理 | ・1.5トン超の運送で再委託が発生するすべてのケースについて、必須項目(実運送事業者名、運送区間、請負階層、貨物内容など)を漏れなく記録・保存 |
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下請け事業者の情報の収集と共有 | ・下請け各社から「事業者名」「積込地・納品先」「請負次数」「貨物の種類」を書面またはデジタルデータで受領 ・社内システムや共有フォルダで関係部署間に確実に伝達 |
下請け構造の透明化 | ・自社の再委託ネットワークを可視化し、必要に応じて荷主に構造図や管理簿を提示 |
法令遵守の徹底 | ・改正貨物自動車運送事業法の要件(管理簿義務・通知義務・書面交付義務・努力義務など)を社内マニュアルに明文化 ・営業・配車・総務など関連部門への周知・研修を定期的に実施 |
運送利用管理体制の構築 | ・前年度利用運送量が一定基準を超える場合は、運送利用管理者を選任し、「運送利用管理規程」を策定 ・下請取引の適正化に向けた社内ルールを定め、責任者が運用状況を点検・改善 |
これらの措置を着実に進めることで、法令遵守と公正取引が担保され、安全かつ持続可能な物流体制の構築が可能となります。
実運送体制管理簿の作成義務化は、物流業界の長年の課題であった多重下請け構造の是正に向けた重要な一歩です。2025年4月1日の施行に向けて、対象となる元請事業者は、実運送体制の正確な把握、管理簿の作成・保管体制の整備を確実に行う必要があります。また、荷主もこの制度の趣旨を理解し、運送契約の明確化や適正な運賃設定、物流効率化への協力を通じて、持続可能な物流システムの構築に貢献していくことが求められます。
実運送体制管理簿の作成対象者を関係者間で共有し、各々の立場で対策を講じることで、自動車運転業務の安全性と労働環境の向上を目指しましょう。