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2025年トラック法改正で何が変わる?運送事業者の経営対策を解説

2025年4月、貨物自動車運送事業法(いわゆるトラック法)が大きく改正されます。
今回の改正は、労働環境の改善、物流の効率化、そして違法取引防止を目的としたもので、荷主・運送事業者の双方に直接的な影響を及ぼします。

特に、実運送体制管理簿の作成義務拡大2次請け以降の輸送制限適正原価の告示導入など、従来の業務フローや契約関係を見直さざるを得ない項目が多く盛り込まれています。これらは単なる法令遵守にとどまらず、事業収益や人材確保にも直結するため、対応の遅れは経営リスクの増大につながります。

本記事では、改正内容の全体像と企業への影響を整理し、運送事業者が今から取り組むべき具体的な経営対策を解説します。

目次

1.2025年トラック法改正の全体像と背景

今回の法改正は、長引くドライバー不足と労働時間規制の強化(通称「2024年問題」)を背景に、持続可能な物流体制の構築を目指すものです。荷主への適正運賃収受の働きかけや、多重下請け構造の是正、さらには運送事業者のコンプライアンス強化が主な狙いであり、業界全体の構造改革を促すものと言えるでしょう。

(1)なぜ今、法改正が行われるのか

トラック業界は、長年にわたり次のような構造的課題を抱えてきました。

  • 慢性的な人手不足:高齢化の進行と若年層の就業減少
  • 長時間労働の常態化:待機時間の多さや非効率な配送ルート
  • 低運賃構造:過度な価格競争による収益性の低下

これに加え、2024年問題(働き方改革関連法によるドライバーの時間外労働上限規制)が現実のものとなり、運べる荷物量の減少や納期遅延のリスクが顕在化しています。

こうした状況は、単なる労務課題にとどまらず、国内の物流インフラそのものの維持を揺るがす要因となっています。

(2) 改正の狙いと業界全体へのインパクト

今回の法改正は、ドライバーの労働条件改善だけでなく、物流業界全体の構造改革を目的としています。具体的には、次の3つの狙いが軸となります。

  1. 収益構造の適正化
     荷主から元請け、さらに2次以降の下請けまで、多層的に連なる取引構造において、適正な価格設定と利益配分を確保する。
  2. 責任の明確化
     各段階での契約内容や業務範囲を明確にし、事故や遅延、労務トラブル発生時の責任所在をはっきりさせる。
  3. サービス品質と持続可能性の向上
     非効率な多重委託や過剰なコスト削減競争を是正し、安定した輸送品質と長期的な経営基盤を確立する。

これらの改革が進むことで、過度な負担のしわ寄せが排除され、適正運賃の確保と業務効率化が両立します。その結果、運送事業者は安定的な収益を確保しやすくなり、ドライバーの賃金・労働環境改善にもつながる好循環が生まれます。最終的には、物流サービス全体の信頼性向上と業界の持続可能な発展が期待されます。

参考:https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000029.html

2.法改正の主要変更点と企業への影響

ここでは、法改正の主要変更点と企業への影響について解説します。

参考:https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000029.html

(1)実運送体制管理簿の作成義務拡大

改正後は、運送事業者が作成・保管すべき実運送体制管理簿の対象範囲が拡大されます。これまで対象外だった一部の取引も記録義務が生じ、自社だけでなく協力会社を含めた輸送体制全体の実態把握が必要になります。

具体的には、次の情報を正確に管理簿へ記載することが求められます。

  • 委託した輸送の割合や件数
  • 委託先の事業者名・事業許可の有無
  • 実際に輸送を行う事業者(実運送事業者)の階層構造

これにより、輸送能力の可視化不透明な多重下請け構造の是正が進みます。管理簿の適切な運用は、単なる法令遵守にとどまらず、取引の透明性向上や荷主との信頼関係強化にもつながります。

(2)2次請け以降の輸送制限(努力義務化)

改正法では、過度な多重下請け構造の抑制を目的に、2次請け以降への輸送委託を制限する努力義務が新たに設けられます。背景には、次のような課題があります。

  • 実運送を行わない「丸投げ」契約の存在
  • 中間マージンの積み重ねによる運賃の不適正化
  • 下位請負ほど労働条件が悪化しやすく、サービス品質が低下する傾向

この改正により、運送事業者は委託先がさらに下請けへ再委託していないかを把握・管理し、必要に応じて契約内容を見直すことが求められます。また、委託先のドライバー処遇や労働環境が適正であるかどうかも確認する責任が生じます。

結果として、輸送品質の安定化と運賃の適正化が進み、荷主に対するサービス向上と取引の信頼性確保が期待されます。

(3)適正原価の告示導入

改正法では、国土交通省が算定した適正原価額を告示する制度が新たに導入されます。
この「適正原価」は、燃料費・人件費・車両維持費・管理費など、運送事業の実態に基づいて計算されたもので、運賃交渉の客観的な基準として機能します。

これにより、運送事業者は荷主との取引において、告示額を根拠に不当な値下げ要求を拒否しやすくなります。結果として、過度な運賃ダンピングの抑制、事業者の安定収益の確保が可能となります。

さらに、収益性が改善されれば、その一部をドライバーの賃金や労働条件改善に再投資でき、業界全体の人材確保とサービス品質向上にもつながります。

(4) 事業許可の5年更新制

これまで無期限だった貨物自動車運送事業の許可が、改正後は5年ごとの更新制へと移行します。更新時には、国土交通省などの所管行政機関が経営状況・法令遵守体制・安全管理状況などを総合的に確認し、基準を満たさない場合は改善指導や、場合によっては事業継続の可否を判断します。

この制度の導入目的は、以下のとおりです。

  • 不適切な運営を行う事業者の排除
  • 法令遵守意識の維持・向上
  • 業界全体の安全性・信頼性の確保
    にあります。

事業者にとっては、更新要件を常に満たすために、日々の業務でのコンプライアンス徹底、安全管理記録の適正化、財務・運営状況の健全化が不可欠です。これにより、業界全体の質的向上と持続可能な経営基盤の形成が期待されます。

(5)無許可業者への委託禁止と罰則強化

改正法により、事業許可を持たない業者への運送委託が明確に禁止されます。違反した場合には、運送事業者・荷主双方に対して罰則が強化され、行政処分や罰金などの厳しい措置が科されます。

背景には、無許可業者の中には安全基準や労働基準を守らずに事業を行うケースがあり、事故リスクの増加やドライバーの労働環境悪化、業界全体の信頼失墜を招くという課題があります。

そのため、運送事業者は委託先が正規の事業許可を取得しているかを必ず確認し、記録として残すことが求められます。具体的には、許可証の写しや国土交通省の事業者検索システムを活用した定期的な確認が有効です。

このルール徹底により、コンプライアンス体制の強化とともに、業界の安全性・信頼性の底上げが期待されます。

(6) 労働者処遇改善の明確化

改正法では、ドライバーの賃金・労働時間・休日確保など、処遇改善に関する事項がこれまで以上に明確化されます。従来は努力義務にとどまっていた内容についても、具体的な目標設定と達成に向けた取り組みの計画・実行が企業に求められる方向です。

運送事業者は、例えば次のような改善策を自社計画に組み込み、実施状況を社内外に示す必要があります。

  • 時間外労働の削減と拘束時間の短縮
  • 公正な賃金水準の確保と賞与・手当の充実
  • 年間休日の増加や休暇取得率向上の仕組みづくり

これらの取り組みは、単に法令対応にとどまらず、人材確保・定着率向上・企業ブランド力強化にも直結します。結果として、持続可能な物流業界の実現と、ドライバーの働きやすい環境づくりが加速すると期待されます。

3.運送事業者が取るべき経営対策

法改正への対応は、単なる義務履行に留まらず、事業の持続的成長の機会と捉えることが重要です。
ここでは、運送事業者が取るべき経営対策について解説します。

(1)管理簿運用と請負階層把握の仕組み

実運送体制管理簿は、単に自社の輸送実績を記録するだけでなく、2次・3次請けを含む請負階層を正確に把握・管理するための中核ツールです。法改正後は、この管理簿を活用し、輸送委託の透明性を高めることが求められます。

効果的な運用体制を構築するためには、以下のポイントが重要です。

  • 社内システムへの組み込み:紙ベースではなく、管理簿をデジタル化し、リアルタイム更新を可能にする。
  • 情報収集フローの明確化:委託先から必要情報(事業許可・委託割合など)を確実に回収できる手順を整備。
  • 担当者間での共有ルール:誰が見ても即座に請負階層と委託内容を把握できる状態を維持。

こうした仕組み化により、法改正で求められる「2次請け以降の輸送制限」への対応や、契約内容の透明性確保がスムーズになります。結果として、コンプライアンス遵守と取引先からの信頼向上の両立が可能となります。

(2)委託契約の見直しと元請け連携

二次請け以降の輸送制限(努力義務化)や適正原価制度の導入を踏まえ、従来の慣習に依存した契約内容を精査・更新することが不可欠です。見直しの際には、以下の項目を明確化し、必要に応じて再交渉を行います。

  • 運賃設定の根拠:適正原価の考え方を反映し、コスト割れを防ぐ。
  • 責任範囲の明確化:事故・遅延・品質不良が発生した場合の対応責任を明示。
  • 運送条件の具体化:納期、荷役作業の範囲、付帯業務の有無などを契約書に明記。

特に重要なのは、元請け運送事業者との協議・合意形成です。運賃や委託条件の適正化を元請け段階で確保することで、下請け構造全体の健全化と、自社の安定的な収益確保につながります。

この取り組みは、法令遵守だけでなく、長期的な取引関係の維持・強化、さらにはサービス品質向上の基盤にもなります。

(3)適正原価算定の社内定着

国土交通省が告示する適正原価を有効活用するには、算定基準を社内に浸透させ、全員が同じ基準で判断できる体制を整えることが欠かせません。これにより、運賃交渉において客観的かつ説得力のある根拠を提示でき、収益性の確保につながります。具体的な定着手順は以下の通りです。

  • コスト構造の分析:燃料費、人件費、車両維持費、保険料などを正確に算出。
  • 社内マニュアル化:算定方法や交渉時の説明手順を明文化し、共有。
  • 従業員研修の実施:管理職や営業担当者だけでなく、現場担当者も含めて理解を徹底。

こうした体制を構築することで、適正な価格での取引実現と、長期的な経営基盤の強化が可能になります。また、収益性向上の成果をドライバーの処遇改善に還元する好循環も生まれます。

(4)許可更新制度への事前準備

事業許可の5年更新制は、経営体制と法令遵守状況を定期的にチェックし、基準を満たす事業者のみが事業を継続できる仕組みです。更新審査では、過去の法令違反歴や安全管理体制、財務の健全性などが評価対象となります。

そのため、次のような準備を日常業務の中で進めておくことが重要です。

  • コンプライアンスの徹底:労働時間管理、運行記録、安全点検記録の適正化
  • 必要書類の整備:許可証写し、点呼記録、整備記録、教育実施記録など
  • 体制の定期点検:安全管理規程やマニュアルの最新化、担当者教育の実施

また、更新時期から逆算してスケジュールを組み、不足書類や改善点を早期に洗い出すことが、事業継続の安定化につながります。こうした取り組みは、更新審査への対応だけでなく、日常的な経営品質の向上にも寄与します。

(5)コンプライアンス教育の徹底

法改正対応を一過性の事務処理で終わらせず、企業文化としてコンプライアンス意識を根付かせることが重要です。全従業員が改正内容の背景と重要性を理解し、日常業務の中で自然に遵守できる状態を目指す必要があります。

効果的な教育を行うためには、次のポイントを押さえた体系的なプログラムの構築が求められます。

  • 実運送体制管理簿の正確な記録方法
  • 委託契約時の注意点と交渉ポイント
  • 適正原価の考え方と運賃交渉への活用方法
  • 2次請け以降の輸送制限ルールとその運用上の留意点

これらを座学だけでなく、事例演習や現場でのOJTと組み合わせることで、理解度と実践力が向上します。結果として、法令違反のリスク低減と企業の信頼性向上につながり、取引先や荷主からの評価も高まります。

(6)労働環境改善と福利厚生見直し

ドライバー不足が年々深刻化する中、法改正による労働時間上限規制の強化は、運送業界における人材確保・定着の重要性をさらに高めています。今後は、法定労働時間の遵守を出発点として、より働きやすい環境づくりが不可欠です。

取り組むべき主な改善策は以下の通りです。

  • 休憩時間の適正確保と長時間拘束の抑制
  • 休日増加やシフト柔軟化によるワークライフバランス向上
  • 賃金体系の見直し(基本給引き上げ、賞与・手当の充実)
  • 福利厚生の拡充(健康診断、退職金制度、家族向け支援など)

こうした施策は、従業員の満足度を高めるだけでなく、優秀な人材の確保・定着率向上、企業イメージの向上にも直結します。結果として、安定した輸送品質の維持と、持続可能な経営基盤の強化につながります。

4.施行前に確認すべきチェックリスト

ここでは、運送事業者が実施すべき主要な確認事項を挙げます。

(1)管理簿様式と運用フローは完成しているか

法改正により、実運送体制管理簿の作成・保管義務の対象範囲が拡大されます。施行後すぐに対応できるよう、改正要件を満たした管理簿様式が用意されているかを確認しましょう。

特にチェックすべきは以下の点です。

  • 記載項目が最新要件に沿っているか(委託割合、委託先情報、階層構造など)
  • 現場での記録・管理・報告の手順が明確化されているか
  • 担当者が運用方法を理解し、日常業務で実行できる状態か

また、日常的な運用を想定し、担当者への周知徹底や教育計画を準備しておくことが重要です。様式と運用フローが整っていれば、法令遵守だけでなく、委託構造の可視化や取引の透明性向上にもつながります。

(2)委託先の合法性・許可状況は確認済みか

法改正により、無許可事業者への運送委託が明確に禁止され、違反時の罰則も強化されます。これは、安全基準や労働基準を守らない業者を排除し、業界全体の信頼性を高めるための重要な措置です。

施行前に必ず、以下の点を確認しましょう。

  • 既存の委託先が有効な事業許可を保持しているか(許可証の写しや国土交通省の事業者検索システムで確認)
  • 実運送体制管理簿に正確な情報を記載できる業者であるか
  • 委託先の下請け構造が法改正の要件を満たしているか

もし基準を満たさない委託先があれば、契約内容の見直しや新規委託先の選定を早急に検討する必要があります。これにより、施行後の法令違反リスクを未然に防ぎ、取引の透明性と安全性を確保できます。

(3)適正原価計算の仕組みは整備されているか

「適正原価」の告示導入により、運送事業者は自社のコスト構造を正確に把握し、適正な運賃・料金を設定する責任が明確になります。これにより、価格競争による過度な値下げや収益性低下を防ぎやすくなります。

施行前に確認すべきポイントは以下の通りです。

  • 原価計算の基準が社内で明確化されているか(燃料費、人件費、車両維持費など)
  • 関係部署間での共有と理解が浸透しているか
  • 算定結果を交渉資料として活用できる体制があるか

こうした仕組みを整えることで、荷主との交渉における客観的な根拠を提示でき、長期的に安定した取引関係を築くことが可能になります。また、適正な運賃収受はドライバーの処遇改善にもつながり、経営の持続性を高めます。

(4)許可更新に必要な要件を満たしているか

事業許可の更新制が5年ごとの定期更新に変更されることで、事業運営の透明性・継続性がこれまで以上に重視されます。更新審査では、最新の法令基準への適合状況や過去の違反歴、経営の健全性などが総合的に評価されます。

施行前に確認すべき主な項目は以下の通りです。

  • 最新の法令・安全基準を満たしているか
  • 過去の行政処分や違反歴がないか、または改善措置が完了しているか
  • 財務状況や経営体制が安定しているか

これらを事前に自己点検し、不備や改善が必要な部分は更新時期から逆算して早期に対応することが重要です。計画的な準備を行うことで、更新審査を円滑に通過し、事業継続の安定性を確保できます。

(5)労働時間・休日・賃金制度は法基準を満たしているか

2024年問題に伴う労働時間上限規制や、処遇改善に関する法改正を踏まえ、自社の労働条件が最新の法基準に適合しているかを必ず確認しましょう。違反が発覚すれば行政処分や罰則だけでなく、人材確保や取引継続にも影響します。

施行前に点検すべき主な項目は以下の通りです。

  • 時間外労働・拘束時間が上限を超えていないか
  • 法定休日や休憩時間が確保されているか
  • 賃金・各種手当が最低基準以上であるか(地域別最低賃金や業界基準を考慮)

必要に応じて、就業規則や賃金規程の改定、シフトや配車計画の見直しを行い、働きやすい環境の整備と法令遵守を両立させることが重要です。これにより、従業員の定着率向上と企業の信頼性向上が期待できます。

5.まとめ

2025年4月の貨物自動車運送事業法(トラック法)改正は、ドライバー不足や「2024年問題」を背景とした物流業界全体の構造改革です。法令遵守の枠を超えて、収益性や人材確保、企業信頼性に直結する大きな転換点といえます。

改正内容を把握し、具体的なアクションを実行することで、変化をチャンスへと変えていくことが可能となるでしょう。

監修

東証プライム上場企業にて24年勤務した経験と、運行管理者資格の保有を活かし、道路交通法や労務管理、安全運行の実務知識をベースとした分かりやすい記事をお届けしています。

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