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2024年4月施行の改善基準告示の改正により、ドライバーは1日の休息時間を複数回に分けて取得できるようになりました。これにより、より柔軟な勤務体系の構築と安全確保の両立が可能になります。
本記事では、運送業における分割休息の基本的な考え方から具体的なルール、さらに導入時の実務ポイントまでをわかりやすく解説します。
ここでは、まず分割休息の基本的な意味と導入の背景、そして改正前後で何が変わったのかを整理して解説します。
なお、以下の動画では改善基準告示に関する概要をご確認いただけます。
分割休息とは、ドライバーが1日の休息時間を複数回に分けて取得できる制度を指します。
たとえば、朝6時に運転を開始し、昼前に3時間以上の休憩を取り、夕方の運行を終える前にさらに4時間の休息を挟む場合、合計で分割休息の最低要件(10時間以上)を確保できれば、一括での長時間休息と同様に扱われます。
この方法により、長距離運転中でも疲労を感じる前にこまめに休憩を入れられるため、疲労の蓄積を抑え、安全運行にもつながります。
分割休息の要件としては 分割休息は1回当たり継続3時間以上とし、2分割の場合は合計10時間以上、3分割の場合は合計12時間以上の休息期間が必要です。また、3分割が連続しないよう努める必要があります。それぞれをまとめた表は以下のとおりです。
分割回数 | 1回あたりの休息時間 | 合計休息時間 |
---|---|---|
2分割 | 3時間以上 | 10時間以上 |
3分割 | 3時間以上 | 12時間以上 |
適用条件は、業務の必要上、継続9時間以上の休息期間を与えることが困難な場合の特例措置で、一定期間(1ヶ月程度)における全勤務回数の2分の1が限度です。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/2023_Pamphlet_T.pdf
分割休息制度が導入された背景には、以下のような物流業界が直面する深刻な課題があります。
原因 | 詳細 |
---|---|
高齢化による離職増加 | ・ドライバーの平均年齢が上昇し、定年や体力面の不安から離職する人が増えている ・若手人材の補充が追いつかず、世代交代が進みにくい(現在、44.3%が40~54歳の中年層で、全産業平均より若年層と高齢層の割合が低い) |
若年層の就業希望者減少 | ・長時間労働や不規則な勤務時間のイメージから敬遠され、安定性やワークライフバランスを重視する若者の志望者が減少している (有効求人倍率は2.7倍と全職業平均の約2倍だが、上記理由もあり応募者は少ない状況) |
長時間労働や休日の少なさによる敬遠 | 法改正や改善基準告示で是正が進んでいるが、依然として拘束時間が長く、休日が取りにくい環境が残っており、就業意欲を下げている。 (1運行あたりの平均荷待ち時間は約1時間34分~1時間45分で、長時間労働の一因となっている) |
賃金水準と労働負荷の不均衡 | 働負荷が高い割に賃金水準が他業種と比較して低い場合があり、割に合わないとの認識から転職や就職回避につながっている (全産業平均と比べて月額約5万円、年収では100万円以上の格差がある) |
深刻な人手不足の現状 | 現在のドライバー不足は既に限界に近く、2024年問題でさらに深刻化が予想される状況。野村総合研究所の推計では、2030年度にはドライバーが36%不足し、全国の約35%の荷物が運べなくなる見込み。 |
従来の連続休息制度では、特に長距離輸送や交通渋滞、平均1時間34分の荷待ち時間など、ドライバー本人の意思だけでは調整しきれない外的要因が多く存在しました。
こうした実態を踏まえ、分割休息の導入によって休息時間を柔軟に分割取得できるようにすることで、現場の多様な状況に対応しつつ、ドライバーの健康維持と安全確保をより効果的に推進することが目的とされています。
改正前のルールでは、ドライバーは原則として継続8時間以上の連続した休息時間を確保する必要がありましたが、実際の業務では交通状況や荷役作業などにより、連続した休息を確保するのが難しいケースも多く見られました。以下の表では、改正前後の主な違いをご確認いただけます。
改正前(~2024年3月) | 改正後(2024年4月~) | |
---|---|---|
休息時間の確保方法 | 原則として継続8時間以上の連続休息が必要 | 特定条件を満たす場合に限り2分割の場合は合計10時間以上、3分割の場合は合計12時間以上できる |
分割の最小単位 | 1回当たり継続4時間以上 | 1回当たり継続3時間以上 |
適用期間の制限 | 一定期間(原則2週間程度)における全勤務回数の2分の1が限度 | 一定期間(1ヶ月程度)における全勤務回数の2分の1が限度 |
実務上の課題 | 渋滞や荷役待ちなどで連続休息の確保が困難 | 運行状況や疲労度に応じて休息時間を柔軟に設定可能 |
ドライバーへの影響 | 休息確保が難しく疲労蓄積のリスクが高い | 現場状況に合わせた勤務計画と労務管理が可能 |
分割休息の導入によって、企業側にとっても、より現場の実態に合った労務管理が可能になる重要なポイントです。
分割休息制度の導入は、ドライバーの疲労軽減による安全性向上や、労働時間管理の柔軟化といったメリットが期待できる一方、制度の複雑さからくる管理コストの増加や、ドライバーの理解・協力が得られないリスクも存在します。ここでは、分割休息導入のメリットとデメリットを解説します。
分割休息制度の導入は、労働環境の改善だけでなく、労働管理の柔軟化により企業の競争力強化や持続的成長にも寄与する重要な要素となりえます。
分割休息により、連続した長時間拘束を避けて適切に休憩を取ることが可能になります。これによってドライバーの疲労蓄積が抑えられ、居眠り運転や注意力低下による事故リスクが大幅に減少し、安全運行の実現に繋がります。
業務中の突発的な事態や交通渋滞、荷待ち時間など、予測困難な状況にも柔軟に対応できる休息取得が可能になります。これにより、より効率的かつ現実的な運行計画の立案が実現し、運送業務全体の生産性向上が期待できます。
法改正に適切に対応することで、行政処分や罰則といったリスクを回避できます。これにより、企業の社会的信用や信頼性の維持・向上にもつながり、安定した事業運営が可能になります。
厚生労働省の調査(令和5年度)によると、道路貨物運送業は脳・心臓疾患の請求件数171件、支給決定件数66件で全業種中最多となっており、自動車運転従事者も請求件数183件、支給決定件数64件で職種別では最も多い状況です。分割休息により適切な休息を確保することで、こうした深刻な労災リスクの軽減が期待できます。
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40975.html
分割休息を利用する場合、通常の乗務前・乗務後点呼に加えて、分割休息の開始時と終了時にも点呼が必要となります。これにより、ドライバーの状態をより細かく把握でき、安全管理の向上につながります。
分割休息制度は、想定されるデメリットや課題に対して、事前の準備と継続的な改善を行うことで、そのメリットを最大限に活かせるようになります。
新しいルールをドライバーや管理者が正しく理解し、日常業務に適切に反映させるためには、丁寧な教育と周知が欠かせません。運用が複雑になることで、かえって混乱や誤解が生じるリスクもあるため、定期的なフォローアップが必要となります。
休息の回数が増えることで業務の連続性が途切れやすくなり、全体としての生産効率が落ちる可能性があります。労働時間と休息時間のバランスを見極め、適切なシフト設計を行うことが重要です。
分割休息の運用に際して、勤怠管理システムの改修や新規導入、さらに従業員教育など、制度対応に伴う初期投資や運用コストが発生する場合があります。これらを見越した計画的な予算配分と効率的な管理体制の構築が求められます。
分割休息の適用により点呼回数が増加するため、運行管理者の業務負担が増大します。特に複数のドライバーが同時に分割休息を取得する場合は、管理体制の見直しが必要となります。
分割休息は特例措置であり、根本的な長時間労働の解決策ではありません。
荷待ち時間の短縮や効率的な配車システムの導入など、労働時間短縮の本質的な取り組みと併せて活用することが重要です。
分割休息制度をスムーズに導入し、その効果を最大限に引き出すためには、企業としていくつかの重要な実務ポイントを押さえる必要があります。ここでは、分割休息導入時の企業側の実務ポイントについて解説します。
分割休息制度を円滑に導入するためには、まず企業の労務管理体制と就業規則を見直すことが重要です。具体的には、ドライバーの労働時間や休息時間の規定を、改正改善基準告示などを内容に即したものとして以下のように明確に定め直す必要があります。
規定内容 | 2024年改正のポイント | |
---|---|---|
1日の労働時間の上限 | 労働基準法および改善基準告示に基づき、1日の拘束時間や実労働時間の上限を明確に定める | ・原則15時間以内、例外16時間以内 ※分割休息時は拘束時間から休息時間を除外して計算 |
分割休息の合計時間 | 2分割の場合:合計10時間以上、3分割の場合:合計12時間以上であることを規定する | ・分割回数に応じた必要時間の明確化 ※通常休息9時間に対し、分割時は10時間以上(2分割)または12時間以上(3分割) |
各回の最低休息時間 | 分割休息の1回あたりの最低時間(3時間以上)を明記し、短時間休憩の連続による代替を防ぐ | ・2024年改正で4時間から3時間に短縮 ※各回とも継続取得が原則、業務から完全に離脱できる時間 |
分割回数の上限 | 分割できる休息の回数(最大3回まで)を定め、過度な細分化を防止する | ・3分割の新設(従来は2分割のみ)※3分割連続使用の制限(努力義務)で疲労蓄積防止 |
使用回数制限 | 一定期間(1ヶ月程度)における全勤務回数の2分の1を限度とすることを明記 | ・月間使用回数の上限管理 ※所定勤務回数(実勤務回数ではない)の50%以内で計算 |
休息取得の時間枠 | 休息時間は24時間以内に取得完了することを規定し、日をまたぐ際の管理基準を明確化する | ・始業時刻起算での24時間管理※運行指示書への事前記載が必須(急遽適用は原則不可) |
点呼実施の義務 | 分割休息の取得ごとに運行前点呼と同等の確認(体調・アルコール・運行計画など)を実施義務を規定とし、安全管理体制を徹底する。 | ・分割休息の開始時・終了時の点呼義務 ※通常より点呼回数が2~3倍に増加、IT点呼・遠隔点呼の活用が重要 |
また、労務管理担当者が新ルールに基づく勤怠管理やシフト作成を適切に行えるよう、社内マニュアルの整備や教育もあわせて進めることが重要です。
分割休息制度を効果的に導入するには、ドライバーが新ルールを正しく理解し、実践できるよう丁寧な周知と教育が欠かせません。
単に「制度が始まる」と伝えるだけではなく、以下のように制度が必要な理由や背景、目的まで説明することが重要です。
伝えるべき内容 | 概要 |
---|---|
取得方法 | 分割休息の合計時間・最低時間・分割回数上限などのルールをわかりやすく示し、具体的な取得手順やタイミングを説明する |
健康維持への効果 | こまめな休息取得が体調管理や疲労回復に役立ち、長期的な健康維持につながることを伝える。※過去10年間に健康起因事故を起こした運転者2,778人のうち、心臓疾患・脳疾患・大動脈瘤/解離が31%を占めるとされており、具体的な数字と合わせて適切な休息の必要性を補足する |
安全運転への効果 | 疲労による判断力低下や事故リスクの軽減など、安全面での効果を強調する。 |
業務効率への効果 | 柔軟な休息取得によって運行計画が立てやすくなり、効率的な業務運営につながる点を説明する |
制度違反時のリスク | 法令違反や行政処分・罰則につながる可能性を説明し、遵守の重要性を認識させる。 |
点呼回数の変更 | 分割休息時は通常より点呼回数が2~3倍に増加することを事前に周知 |
記録・報告義務 | 運行指示書への事前記載、乗務記録への詳細記載が必要であることを説明 |
説明会や個別面談、社内研修など、多様なコミュニケーション手段を活用し、疑問や不安を解消する場を設けることも重要です。これにより、現場の声を拾い上げながら円滑な導入を進め、組織全体で分割休息制度の定着を図ることが可能となります。
また、国土交通省が公開している「運行管理者向け指導マニュアル」などの公的資料も教育・周知の場で参考にすると、最新の基準や実務的なチェックポイントを反映でき、より実効性の高い取り組みにつながります。
既存システムが分割休息に対応していない場合は、手作業での管理や別ツールの併用が必要になりますが、これでは人的ミスや管理負担の増加を招くおそれがあります。
分割休息制度を正しく運用するには、ドライバーが1日の中で取得した休息時間を自動で記録・集計し、その内容が制度要件に適合しているかを判定できる勤怠管理システムが必要です。勤怠管理システムの選定時に必要な要件について、以下にまとめています。
要件 | 概要 |
---|---|
休息取得の自動記録 | ドライバーが取得した休息の開始・終了時刻を自動で記録する機能 |
ルール適合の自動判定 | 2分割:合計10時間以上、3分割:合計12時間以上、各回の最低時間(3時間以上)、分割回数上限などの条件を自動で判定 |
集計・レポート機能 | 日別・週別・月別に休息取得状況を集計し、違反や不足があればアラート表示。 |
リアルタイム管理 | 運行中の休息状況をリアルタイムで把握し、管理者が即時対応できる環境を整備 |
システム改修または移行 | 対応していない既存システムは改修し、必要に応じて分割休息対応済みのシステムに移行する |
国の施策として、運行管理の高度化に資する「デジタル式運行記録計の導入支援」 などの補助金制度を活用することで、システム導入コストの軽減が可能です。
これにより、ドライバーの休息状況をリアルタイムで正確に把握できるだけでなく、労務管理者の業務効率化にもつながり、安全かつ法令遵守の体制構築が実現します。
分割休息制度の導入は、休息時間の確保だけでなく、ドライバーの疲労度を正確に把握し、事故リスクを低減する重要な機会です。企業は、勤務状況や休息の質を継続的にモニタリングし、異常があれば迅速に対応できる以下のような体制を整える必要があります。
取組み | 概要 |
---|---|
勤務状況・休息質のモニタリング | 休息時間の長さだけでなく、取得タイミングや質を把握し、疲労度を定期的に評価する。 |
健康状態の定期チェック | 健康診断や日常の体調報告を活用し、異常の早期発見と対応につなげる。 ※運転に影響を及ぼす、睡眠時無呼吸症候群(SAS)や脳血管疾患、心臓疾患等のスクリーニング検査も実施が好ましい。 |
個別アドバイス・ケア | 疲労度や健康状態に応じて、運行計画や休息方法の改善提案を行う |
安全文化の醸成 | 事故防止や健康管理を組織全体の共通目標として定着させ、継続的な改善活動を行う。 これらの取り組みを実際にシステム化することで、大幅な業務改善と安全性向上を実現している |
国土交通省の脳健診モデル事業では、疾病の早期発見・早期治療ができた事例を多数確認でき、脳血管疾患による健康起因事故の未然防止につながることが実証されました。
また運送業界では、バイタルチェック機能導入により、従来の「顔色」「声色」での判断から数値に基づく客観的な健康状態把握に移行し、乗務員の安全意識が大幅に向上しております。
こうした取り組みを通じて、ドライバーの安全と健康を守りながら、企業全体の事故防止・安全文化の醸成に繋げることが可能となります。
参考:https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001722666.pdf
運送業における分割休息制度は、ドライバーの疲労軽減と安全確保に不可欠な取り組みです。2024年の改正ポイントを正確に理解し、メリット・デメリットを踏まえた上で、労務管理の見直し、ドライバーへの教育、そして勤怠管理システムの活用といった実務的な準備を進めることが、円滑な制度導入へとつながるでしょう。
10年にわたる物流会社での事務経験を持ち、現場実務に精通。2024年に貨物運行管理者資格を取得し、法令遵守と実務の両面から運行管理を支援しています。