運行管理者は一定の条件を満たすことで、運行管理者が運転業務を兼任することが可能です。ただし、運行管理者の役割である安全運行の確保に関する条件を満たせる場合のみとなります。
本記事では、運行管理者と運転者の兼任について解説します。業務を円滑に進めるための補助者の役割も解説しますので、人員配置の参考にお役立てください。
1.運行管理者は運転してはいけないのか?
運行管理者の主な役割は、ドライバーの健康状態の確認や運行計画の作成、運行前後の点呼といった、安全運行を支える業務全般です。
運行管理者が運転者と兼任する際に、注意すべき点は以下のとおりです。
業務の適切な分担 | 業務を支援する補助者が配置されている |
---|---|
法律やガイドラインの遵守 | 法で定められた基準を厳守できる |
運行管理者と運転者の兼任は人員不足が課題となっている運送業界において、効率的な人員配置の一環として活用できる選択肢ですが、適切な管理と業務分担を行わないと、結果的に安全運行に悪影響を及ぼすため、慎重な運用が求められます。
(1)配置人数を満たしていて他の運行管理者が業務に対応できる
必要な人数を超えて運行管理者が配置されており、他の運行管理者が点呼や運行計画の管理を担当できる状態にあれば、運行管理者が運転者として車両を運転することができます。
車両台数に応じて必要な運行管理者の配置人数は、以下のように法令で定められています。
車両台数 | 運行管理者の人数 |
---|---|
~29台まで | 1名 |
30台~59台まで | 2名 |
60台~89台まで | 3名 |
安全運行に関する業務が最優先となるため、上記の必要人数を超えて運行管理者が配置されている場合、業務の分担が進み、運行管理者としての業務と運転業務を行いやすくなります。
運行管理者の本来の業務である安全運行を支える業務全般が疎かにならないことは前提となるため、運行管理者が運転者を兼任する場合には余裕をもった人員配置を行うようにしましょう。
(2)補助者のサポート体制が整っている
運行管理者の人数が車両台数に対応した必要人数を満たしており、補助者が業務範囲内で対応可能な作業をサポートすることで、運行管理者が運転業務を兼任する余地が生まれます。
ただし、運行管理者としての本来の業務が滞らないよう、以下のように補助者との適切な役割分担と体制の整備が求められます。
補助者との適切な役割分担 | 本来の運行管理者業務に支障が出ない体制を整える |
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体制の整備 | 業務負担が均衡を保てる仕組みが整っている |
ただし運行の可否の判断や緊急時の対応など、安全運行に直結する業務は運行管理者のみにしか行えません。
補助者については後ほど解説しますが、補助者が運行管理者の業務を代理ではないため業務範囲の認識に注意しましょう。
2.運行管理者の補助者とは?
補助者は安全運行に直結する業務を行うことはできませんが、運行管理者の指示のもとで限定的に点呼や車両確認等の重要な業務を行うことが可能です。
ここでは、運行管理者の補助者ができることや補助者の任命方法等を解説します。
(1)運行管理者の補助者とは?
運行管理者の補助者とは、運行管理者が行う業務を補助する役割を担う人のことです。
補助者の主な役割は運行管理者の負担軽減であり、業務の分担によって適切な運行管理を目指します。
たとえば、車両台数が29台までの場合、必要な運行管理者は1名のみですが、1人の運行管理者が24時間体制で安全運行の維持に関する業務を完全にこなすことは困難です。
こうした場合に補助者の設置によって、運行管理者に過剰な負担がかかることを防止できます。
(2)運行管理者の補助者ができること
補助者ができる業務は、主に以下の2つとなります。
- 運行指示書作成における一部業務と運転者への伝達事項
- 一部の点呼業務
上記の業務はあくまでも運行管理業務の中でも補助的なものであり、運行管理者の指示があれば補助者が実行できます。
以下では、補助者ができる業務について解説します。
①運行指示書作成における一部業務
補助者は、資料作成やドライバーへの伝達など、運行指示書作成における一部業務を行うことができます。
運行指示書や運行表は運行管理者が計画を立てて作成する必要がありますが、間接的に補助者が行える部分があります。
②一部の点呼業務
補助者が可能な一部の点呼業務とは、全体における3分の2までの点呼業務です。
点呼全体のうち、総回数の3分の1以上は運行管理者自身が実施することが求められます。
点呼は、運行管理者がドライバーの健康状態や車両の安全な運転が可能かどうかを確認するために行う重要な業務であり、運行管理全体において欠かせない役割を果たします。
3.運行管理者の補助者の選任要件
運行管理者の補助者を選任するための要件には、運行管理者資格者証の取得または運行管理者基礎講習の修了のいずれかを満たすことが含まれます。
ここでは、補助者の選任要件について詳しく解説します。
(1)運行管理者資格者証の取得
運行管理者資格者証を取得することで、運行管理者の資格を有する補助者となります。
運行管理者目線の業務を理解している補助者であり、運行管理業務を適切にサポートできる能力が期待できるでしょう。
ただし運行管理者の資格を有するとしても、補助者である以上は業務範囲が補助となるため、安全運行に関わる判断などは行えません。
なお、運行管理者資格者証の取得には、以下の要件をすべて満たし、運行管理者試験に合格する必要があります。
- 運行管理に関する実務経験が5年以上である
- 運行管理に関する講習を5回以上受講している(このうち1回は基礎講習)
同じ年度内に複数回の講習を受講していても、受講回数は合計1回となるため注意しましょう。
(2)運行管理者基礎講習の修了
運行管理者の補助者として選任されるためには、運行管理者基礎講習の修了が要件の一つとなります。
運行管理者基礎講習では、運行管理業務を補助するために必要な基礎知識を学ぶことができ、補助者として業務を遂行するうえで欠かせない内容が含まれます。
概要 | |
---|---|
基礎講習 | 対象者:運行管理者になろうとする者講習時間:16時間内容:運行管理を行うために必要な法令及び業務等 に関する必要な基礎知識の習得を目的とする講習 |
なお、補助者には定期講習(一般講習)がないため注意してください。
4.運行管理者とは?
ここでは、運行管理者について改めて解説します。
(1)運行管理者の義務
運行管理者は、事業者に代わって法令で定められた運行の安全確保に関する業務を遂行し、交通事故の防止に努める重要な使命と責任を担っています。
運行管理者制度において、事業者、運行管理者、運転者それぞれに義務が明確に定められており、安全な運行体制を維持することが求められています。運行管理者制度における主な義務は、以下のとおりです。
運行管理者の義務 | ・運行管理者は誠実にその業務を行う・運行管理者は事業者に対し、安全運航に関する必要な助言を行うことができる |
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事業者の義務 | ・運行管理者が運行管理を適切に行えるよう必要な権限を付与し、支援する・運行管理者の助言を尊重し、運行安全体制に反映するよう務める |
運転者等への義務 | 運行管理者が業務として行う指導に従う必要がある |
運行管理者は、点呼の実施や運行計画の作成、安全教育の実施などで誠実にその業務を行うことが義務付けられており、車両点検体制の改善や運行ルート見直しで事業者に対し、安全運行に関する必要な助言を行えます。
運行管理者の助言や指示のもと、事故防止と安全運行の維持などの安全運行の基盤を支える重要な仕組みが成り立っています。
(2)運行管理者の選任・解任時に必要な届け出
運行管理者の選任・解任には、管轄の運輸支局整備課窓口への届け出が必要です。
貨物自動車運送事業者の場合、運行管理者を選出や解任に関する事由が生じてから1週間以内に届出をする必要があります。
届け出が必要なケースは、以下が挙げられます。
- 人事異動や新規事業所の開設に伴う選任
- 退職や異動、資格要件を満たさなくなった場合
- 複数営業所の統合で業務体制の変更が生じた
なお、届出の際には以下の書類が必要です。
運行管理者選任・解任届出書 | 必要事項を正確に記入した公式書類 |
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運行管理者資格者証の写し | 選任される運行管理者が資格を有していることを証明するための写し |
その他 | 事業所の体制変更が伴う場合には、その他の書類を求められる場合がある |
届出の失念または期限を過ぎると、事業者に対して行政指導や罰則が科される可能性があるため、速やかな手続きが必要となります。
(3)運行管理者の主な業務内容
運行管理者は、事業者に代わって事業用自動車の運行安全を確保するために、以下の業務を遂行します。
運転者の勤務時間等の適正管理 | ・勤務時間や乗務時間を適切に管理し、乗務記録を確認 ・長距離・夜間運転時には交替運転者を配置し、長時間労働を防止 |
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点呼による健康状態の把握 | ・乗務前後に点呼を実施し、健康状態やアルコールの有無を確認 ・問題がある場合は乗務を中止し、交替手配を指示 |
運転者への指導・監督 | ・過積載防止、事故防止教育、異常気象時の安全措置を実施 ・指導内容を記録・保存し、安全意識の向上を図る |
その他の業務 | ・休憩施設の管理やアルコール検知器の維持、災害時の安全措置を実施する |
運行管理者は、勤務時間や健康管理、指導を通じて安全運行体制を維持し、交通事故の防止を多面的に実施します。
(4)運行管理者と安全運転管理者の違い
運行管理者とよく混同される役職に、安全運転管理者があります。運行管理者と安全運転管理者の違いは、適用される法令や管理対象、役割などです。
運行管理者 | 安全運転管理者 | |
---|---|---|
適用法令 | 道路運送法、貨物自動車運送事業法 | 道路交通法 |
対象車両 | 事業用自動車(営業用車両) | 自家用車や非営業用車両 |
届け出先 | 陸運局 | 公安委員会(管轄の警察署) |
選任基準 | 国家試験合格者、一定の実務経験・講習履修者 | 実務経験2年以上の20歳以上 |
運行管理者は、乗務時間の管理や点呼の実施、休憩施設の保守など、ドライバーの運行全般を管理します。
対して、安全運転管理者は安全運転教育やアルコールチェックの記録・保管といった教育・監督業務に重点を置いています。
5.運行管理者と補助者に関する注意点
ここでは、運行管理者と補助者に関する注意点を解説します。
(1)他の営業所との兼任について
他の営業所との兼任については、運行管理者と補助者で可否が異なります。
運行管理者は別の営業所での兼任が不可能ですが、補助者は業務に支障が出ない範囲内で他の営業所と兼任することが可能です。
よって、複数の営業所を運営している事業者は、営業所ごとの車両台数に応じて適切な人数の運行管理者を配置する必要があります。
(2)補助者の人数は業務量を考慮した数であること
補助者の人数は、営業所ごとの業務量に応じて適切に調整する必要があります。
車両台数が少なく、運行管理者1人で十分対応可能な営業所に過剰に補助者を配置すると、無駄な人件費が発生する場合があります。
反対に、業務量に対して補助者の人数が不足している場合には円滑な運営に支障をきたす恐れがあります。
業務量を事前に把握し、必要な補助者の人数を明確にすることが重要です。無駄を防ぎ、効率的に運行管理業務を進めるためにも適切な人数の補助者を配置しましょう。
6.まとめ
運行管理者が運転者を兼任する場合には、業務の分担や法で定められた基準を遵守できるなどの条件を満たす必要があります。
運行管理者のリソースから余力を創出するには、運行管理システム等を活用し、業務効率化を図ることも有効です。