物流需要が拡大する一方で、運送業界では人材不足が年々深刻化しています。
そして、到来する2024年問題では、何も対策を行わなかった場合には、営業用トラックの輸送能力が2024年には14.2%、さらに2030年には34.1%不足する可能性があると試算しています。
この記事ではこれからの運送業について、そして直面している課題とその解決策についてご紹介します。
1.これからの運送業はどうなる?
ここでは、これからの運送業はどうなるのかについて解説します。
(1)運送業は今後もなくならない
結論から言うと、運送業が衰退していくことはなく、今後も社会において、依然として重要な役割を果たし続けると考えられます。
近年では、AIやロボット技術の発展に伴い、運送業務の効率化や自動化が進んでいます。
これにより、少ない人員で業務を遂行できるようになりつつありますが、一方で運送業務の全てを無人化することは現実的ではありません。その理由は以下の通りです。
完全自動化が困難な理由 | 内容 |
---|---|
テクノロジーの管理・運用 | AIやロボットを運用・管理するのは最終的に人間の役割となる |
緊急時の対応や判断 | トラブル発生時には人間による即時判断や対応が必要不可欠になる |
責任の所在 | 事故や問題が発生した場合、その責任を負うのは技術ではなく人間 |
テクノロジーが進化しても、運送ネットワークの維持や管理には人間の役割が欠かせません。そのため、運送業においては新しい技術と人間の力の調和が必要となります。
(2)輸送量の増加に伴い需要がさらに拡大する
運送業界が人材不足に悩まされる一方で、輸送量は年々増加しており、これは業界が直面する大きな課題の一つです。全日本トラック協会のデータによると、宅配便の取り扱い個数は以下のように増加しています。
年度 | 宅配便取扱個数 |
---|---|
2012年 | 89万9,735個 |
2021年 | 92万4,037個 |
このように右肩上がりの傾向が続いている背景には、ECサイトの急速な普及があります。今では多くの消費者がショッピングをオンラインで行うようになり、その分、物品の流通量も飛躍的に増えています。
さらに、日本はアメリカや中国に比べてEC化率(全ての取引におけるECの割合)がまだ低いとされています。
そのため、今後もEC需要が拡大する余地は大きく、それに伴い運送業界が取り扱う宅配便の個数も増加することが予測されます。
(3)物流コストの上昇
運送業界を取り巻く大きな変化として、急激な物流コストの上昇が挙げられます。
以下の全日本トラック協会のデータによると、近年、軽油価格は再び上昇傾向にあり、2008年ごろに記録された最高価格148.93円に届く勢いが見られています。
軽油価格の上昇には、原油調達の安定性が低下したことや後進国の経済活性化による需要の拡大などが挙げられます。
日本は産油国ではないため、原油価格の変動に運送業が左右されやすい現状は避けられません。しかし、新エネルギー分野の技術開発が進み、水素自動車や電気自動車が普及すれば、軽油依存から脱却し、コスト負担を軽減できる可能性があります。
(4)AI技術などの技術が導入される
運送業が直面している人手不足や業務効率化の課題を解決する手段として、AI技術をはじめとするハイテクソリューションが注目されており、れまで人間が行っていた業務をAI搭載のシステムやテクノロジーに置き換えることで、少ない人員でも従来通りの業務遂行能力を確保することが可能です。
複数の運送業者ですでにAI技術やITシステムの導入が進んでおり、主に以下のような効果が確認されています。
効果 | 具体的な内容 |
---|---|
人手不足の解消 | AIによる業務代替で人員確保が難しい現場を補完する |
生産性の向上 | AIやITシステムが人間以上の効率で業務を遂行する |
品質の向上 | ミスの削減や迅速な対応により、業務品質が改善される |
競争力強化・差別化 | 技術活用で他社との差別化が図れ、事業拡大の余地が広がる |
運送業におけるAI技術やITシステムの導入は、単なる現状の課題解決だけでなく、競合との差別化や事業のスケーラビリティ(拡張性)確保においても重要な意味を持ちます。今後は、これらの技術を柔軟に活用することで、運送業の効率化と持続的成長がさらに進むことが期待されます。
(5)人手不足の深刻化により若年層や女性も活躍
運送業において人手不足は、テクノロジーが発展しても完全な解消が難しい課題です。
調査によると、アンケートを実施した企業のうち半数以上がトラックドライバーの人手不足を感じているという結果となりました。
既存の中年層トラックドライバーの長年の経験と技術が、業界の基盤を築いてきたことは間違いありませんが、こうした新たな層が加わることで、ドライバー全体の労働環境の改善や働き方の多様化が期待されます。
人材確保に向けた取り組みを強化することで、人材不足の課題を乗り越え、運送業界全体の活性化が期待されます。
2.これからの運送業で勝ち組になるポイント
このように、運送業を取り巻く環境は劇的に変化しており、その対応に各社が追われています。運送業の需要は今後も確かなものがある一方、変化に対応できず、廃業を選ばざるを得ない会社も増えてくることが考えられるのが現状です。
これからの運送業で勝ち組になるポイントは、以下のとおりです。
- 人材の確保・育成
- 環境への配慮
- リソースの有効活用
- 物流の2024年問題への対応
ここからは、これからの運送業で勝ち組になるポイントについて解説します。
(1)人材の確保・育成
まず必要なのは、人材の確保と育成です。
最前線で活躍するトラックドライバーの確保はもちろんのこと、バックオフィス業務やDXを進められる人材も確保し、組織の持続可能性を少しずつ高めていくことが求められます。
人材確保・育成のポイントは、以下のとおりです。
多様な人材の確保 | ドライバー、バックオフィス人員、デジタル対応力を持つ人材などをバランスよく確保する |
---|---|
働きやすい環境の整備 | 休職者や離職者を減らすため、労働環境の改善や柔軟な働き方を導入する |
継続的な人材育成 | 研修制度やキャリア支援を充実させ、社員の成長をサポートする仕組みを整える |
人材が定着し、成長していく環境を整えることで、組織全体のパフォーマンス向上や持続可能な成長が期待できます。
働きやすい職場づくりやスキル向上の機会を提供することで、現場と組織が一体となり、これからの運送業をさらに強くしていくことができるでしょう。
(2)環境への配慮
近年、運送業における環境への配慮がますます重要視されています。
トラック輸送が中心となる運送業界は、温室効果ガス排出の抑制が難しいという課題を抱えている一方で、カーボンニュートラルの達成に向けた取り組みに対する社会からの期待も一層高まっています。
運送業界がこの課題に取り組むことは、単なる環境対策にとどまらず、企業の成長や競争力向上にもつながります。具体的には、以下のような施策が注目されています。
低排出ガス車両(EV・水素トラック)導入 | 二酸化炭素排出を大幅に削減し、持続可能な輸送を実現する |
---|---|
運送ルートの最適化 | 無駄な走行距離を削減し、燃料消費と排出ガスを抑制する |
エコドライブや燃費管理の徹底 | 燃費効率を改善し、環境負荷軽減とコスト削減を同時に達成する |
モーダルシフト | トラック輸送から、鉄道輸送や海運輸送へと輸送手段を転換する |
環境負荷低減に取り組むことで、運送業界は社会的責任を果たすと同時に、企業価値やブランド力の向上も期待できます。
(3)リソースの有効活用
運送業において既存のリソースを最大限に活用することは、コスト削減や業務効率化につながります。
新しいデジタルソリューションを導入することで、業務の効率を大幅に改善することが期待されます。
たとえば、配送ルート最適化システムを導入すれば、AIがリアルタイムで最適な配送ルートを計算してくれるので、無駄な走行距離が減り、燃料費や時間の節約ができます。従来のように地図を見ながらルートを考える手間が省け、ドライバーの負担も大幅に軽減されます。
また、デジタルソリューションの導入が難しい場合でも、次のような現実的な取り組みによってリソースの有効活用が可能です。
共同配送 | 複数の企業が協力し、配送ルートを共有 |
---|---|
物流拠点の再編成 | 拠点を見直し、人力で配送距離や時間を最適化する |
ダブル連結トラックの活用 | 一度に多くの荷物を運べるトラックを導入する |
リソースの有効活用は、デジタルソリューションの導入に加え、柔軟な工夫や共同の取り組みによって実現できます。
現状に合わせた施策を少しずつ導入することで、効率的かつ持続可能な輸送・配送の体制を築くことができるでしょう。
(4)物流の2024年問題への対応
物流業界における2024年問題とは、働き方改革関連法の施行に伴い、トラックドライバーの労働時間が短縮されることを指します。
物流の2024年問題による具体的な影響は、以下のとおりです。
輸送能力の低下 | トラックドライバーの労働時間が減少 |
---|---|
運送コストの増加 | 効率が下がることで、1回の輸送あたりのコストが高騰 |
サプライチェーンへの影響 | 計画通りの物流が行えなくなるため、過剰在庫や在庫切れが発生 |
以下の記事では、2024年問題について詳しく解説しています。
2024年問題への円滑な対応には、主に商習慣の見直しと労働環境の整備に注目することが重要です。以下で詳しく解説します。
①商習慣の見直しと物流コストの適正化
2024年問題の対応において、商習慣の見直しと物流コストの適正化は欠かせない取り組みです。これまでの長時間労働に依存した業務体制を改め、正規の就業時間内で業務を完了できるプロセスの構築が求められます。
具体的には、以下の施策が挙げられます。
標準的運賃の見直し | 運送業者が健全な利益を確保できる仕組みを構築 |
---|---|
下請け発注時の適正手数料 | 透明性のある契約条件を設定し、不合理な負担を排除 |
荷待ち時間の削減 | 荷主と連携し、待機時間の短縮や荷役作業の効率化を推進 |
これらの取り組みを通じて、業界全体で透明性の高い経済システムを構築し、ドライバーへの負担軽減と企業の収益性向上を実現することが重要です。
②労働環境の整備と荷待ち時間の改善
2024年問題の背景には、長時間労働の常態化があり、これを是正するために働き方改革関連法が施行されました。
ドライバーが限られた時間内で効率よく業務を遂行できるよう、以下のような労働環境の整備と業務効率化が求められます。
現場の効率化 | ルート最適化システムなどによる業務の無駄を削減 |
---|---|
労働時間内のノルマ設定 | 現実的な目標を設定し、過度な負担を防ぐ |
ドライバーの働きやすい環境整備 | 休憩施設や休息時間の確保、シフト制度の見直しを行う |
これらの施策を実施することで、ドライバーが正規の労働時間内で業務を完了できる体制を構築し、業界全体の働きやすさと持続可能性を高めることができます。
③リードタイムの調整
運送業界にとって、荷主からの要望に応えることは非常に重要です。しかし、短すぎるリードタイムが続けば、結果的に輸送効率が下がり、ドライバーの負担が増大するという問題が避けられません。
荷主としっかり連携し、余裕を持ったリードタイムを設定することで、次のような効果が期待できます。
ドライバーの働きやすさ | 労働時間の削減や負担の軽減につながる |
---|---|
輸送効率の向上 | 1台あたりの輸送効率を最大化することで、コスト削減につながる |
安定した品質の提供 | 遅延やトラブルのリスクを減らして、荷主との信頼関係を維持できる |
納期の見直しは、結果として荷主と運送会社の双方にメリットをもたらす取り組みです。
運送会社が安定して事業を続けられることで、結果的に安定した物流体制の確保につながります。
3.これからの運送業への具体的な対応方法と導入事例
運送業界に従事する事業者がこれからも事業を続けていくためには、以下の施策を検討することにより、持続可能性を高めていくことが求められます。
対応方法 | 効果 |
---|---|
ITシステムの導入 | 無駄な時間やコストを削減し、ドライバーや管理者の負担を軽減 |
荷役作業の効率化 | 配送時間の短縮や業務効率の向上、労働負担の軽減など |
M&Aなどによる事業形態の変更 | 経営基盤の強化や効率的なリソースの共有、輸送能力の向上など |
モーダルシフト | CO₂排出量の削減や人手不足の補完、長距離輸送の効率化など |
物流拠点の機能強化 | 配送距離の短縮や効率的な荷物の仕分け、コスト削減など |
担い手の多様化の推進 | 人手不足の解消や多様な働き方の実現、業界の活性化など |
ここからは、実例も踏まえながら具体的に解説します。
(1)ITシステムの導入
これからの運送業には、業務効率化とドライバーの負担軽減を実現するため、デジタル技術を積極的に活用することが求められます。
具体的には、以下のようなシステムが効果的です。
配送ルート管理システム | AIやGPSを活用して最適な配送ルートを自動算出 |
---|---|
労務管理システム | 労働時間や休憩時間をデジタルで管理し、長時間労働の防止や労働環境の改善につなげる |
車両管理システム | 車両の位置情報や燃費、整備状況をリアルタイムで把握し、安全運行とコスト管理の効率化 |
◎事例
協栄流通株式会社では新しい物流センター立ち上げ時に配車計画システムを導入し、最適な配送エリアをシミュレーションし、配車業務をパターン化したことで、作業時間を1センターあたり7~8時間から2~3時間に短縮し、効率化を実現しました。
(2)荷役作業の効率化
荷役作業の効率化は、業務負担の改善に加え、労働災害の回避にもつながります。
具体的には、以下の施策が有効です。
機械設備の導入 | フォークリフトや昇降設備の導入 |
---|---|
自動化・ロボット技術の導入 | 自動荷役システムやロボットを導入する |
荷姿の変更 | 積込み製品の荷姿を平パレットやロールボックスに変更する |
◎事例
製品の積込み作業において、従来のバラ積みから平パレットおよびロールボックスに荷姿を変更することで、作業時間の大幅な短縮が実現した事例があります。
平パレットの導入により積込み時間が約30分短縮、ロールボックスの導入では約20分短縮されました(※荷量の違いにより相互比較は不可)。
作業時間の短縮により、連続運転4時間に達する際にドライバーが適切な休憩時間を取得できるようになり、効率化と労働環境の改善が進みました。
(3)M&Aなどによる事業形態の変更
中小企業が運送業を継続・成長させる手段として、M&A(企業の合併・買収)による事業形態の変更も有効な選択肢です。
大手グループの子会社となることで、以下のようなメリットが期待できます。
人材の確保 | 採用力や待遇を活用し、人材不足の課題を解消 |
---|---|
設備や機械の導入 | 資金力により、優れた設備やシステムを導入しやすくなる |
業務効率化 | 高度なマニュアルやノウハウを活用することで、業務の標準化や効率化を促進 |
営業先の拡大 | ブランド力やネットワークを活用し、新たな取引先の確保や事業拡大 |
◎事例
メーカー製品輸送を担っていたU社は、後継者不在に悩んでいたところ、長年下請けを行ってきたS社に事業引継ぎを打診しました。U社との合併はS社にとって事業拡大の好機でしたが、荷主との関係を考慮し、U社の名前を残しつつ子会社化する形で合意に至ります。
事業承継にあたってS社はU社の事業評価を行い、財務への影響やコストの見直しを進めました。また、U社に在籍するドライバーへの聞き取り調査を実施し、経営移行後も働きやすい環境を整え、両社の強みを活かしたビジネスモデルを展開します。
(4)モーダルシフト
モーダルシフトとは、物流の輸送手段を自動車輸送(トラック)から鉄道や船舶といった環境負荷の低い手段へ切り替えることで、温室効果ガス(CO₂)の排出を抑制し、持続可能な物流システムを構築する取り組みです。
モーダルシフトによって、CO₂排出量の削減やドライバー不足への対処など以下の効果が見込めます。
CO₂排出量の削減 | トラックに比べて輸送単位あたりのCO₂排出量が少なく、環境負荷を大幅に軽減できる |
---|---|
ドライバー不足への対処 | ドライバーの拘束時間が減少し、労働環境の改善や人材不足の緩和が期待できる |
コスト効率の最適化 | 複数の荷物をまとめて輸送できるため、大量輸送が可能になり、燃料コストや労働コストの削減につながる |
輸送の安定性の向上 | 気象条件や交通渋滞の影響を受けにくく、定時運行が可能となる |
◎事例
JAさがでは、パレット輸送と鉄道・フェリー輸送を積極的に導入し、労働力不足への対応と輸送効率の向上を実現しています。
JRコンテナを活用した佐賀~東京間を鉄道輸送がメインですが、一部区間でフェリー輸送を導入し、長距離輸送の効率化を実現しています。
(5)物流拠点の機能強化
物流拠点を適切に再編成することで、運送能力を最大限に引き出し、コスト削減や業務効率化が期待できます。
物流拠点の見直しにおける主な取り組みは、以下のとおりです。
- 稼働率の高い拠点に荷物を集約し、効率の低い拠点を閉鎖する
- ルート最適化やリアルタイムの荷物管理を行うシステムを導入
- レイアウト見直しや自動化設備の導入で倉庫内作業を効率化
◎事例
物流拠点のパレット管理効率化のため、クラウド型物流容器在庫管理システムを導入し、パレットの一元管理を実現しました。
WEB上で出荷・入荷情報をリアルタイムで照合できるようになり、管理業務の負荷軽減やコスト削減が可能となり、適正なパレット運用も実現しています。
(6)担い手の多様化の推進
運送業界が持続的に発展するためには、労働環境の改善を通じて、多様な人材が活躍できる場を整えることが重要です。
担い手の多様化を推進する取り組みには、トラック免許取得のサポートや柔軟な働き方の提供などが挙げられます。
取り組み | 期待できる効果 |
---|---|
トラック免許の取得支援 | 未経験者や若年層の参入を促進 |
働きやすいシフト制度の導入 | 女性やシニア層の活躍を促進 |
現場サポート体制の充実 | 人材の定着率の向上 |
◎事例
女性ドライバーの活躍を推進するため、女性専用休憩室の整備や残業・泊りのない勤務時間の設定、普通免許で運転可能な2t箱車やオートマ車の導入など、女性が働きやすい環境づくりに取り組んでいます。
4.まとめ
この記事では、運送業が直面する課題と今後の展望について解説しました。運送業は今後も多くのニーズに応え続ける成長産業であり、その重要性が揺らぐことはありません。
人材不足や物流コストの増加、法改正への対応といった課題はありますが、これらは業務の効率化や環境の改善を進める絶好の機会でもあります。